− 第789回 −  筆者 中村 達


『カラビナ』

 先日、100均ショップで小さなカラビナを見つけた。また、ネットではアルミ合金製の小さなカラビナが10個ほどで1,000円前後であり、さまざまな種類とカラーが販売されている。ただ、大きくてもクライミング用には使えないモノが多いので注意が必要だ。
主としてアクセサリー用として販売されているカラビナは、キーホルダーやいろいろなモノを吊り下げておくのには重宝する。

 クライミング用の耐荷重は、20kN程度は必要とされている。およそ2トンだろうか。個人的にはクライミング用のカラビナは、岩登りなどではすっかり使う機会は減ったが、リュックサックなどにぶら下げておくと、トレイルや旅先では何かと便利で愛用している。

 はじめてカラビナを知ったのは、高校山岳部に入部してからだった。当時、高校生にはジュラルミン製のカラビナは高価で手が出ず、もっぱらスチール製だった。大学の山岳部で、はじめてジュラルミン製を使うことが出来た。しかし、高価なので間違って仲間の登攀装備に紛れ込まないよう、カラーテープを巻いてお互いの目印にしていた。

 少しでも安いカラビナをと京都の老舗登山用品店のオーナーが、別注のジュラルミン製のものを店頭に並べていた。店に行くと「学生はこれにしとけ!」と有無を言わずに押しつけられた。言われるままに4,5枚買ったと思う。
 このカラビナで、はじめて本番の岩登りを剱岳ですることになった。八ツ峰六峰のCフェースだった。連れていってくれた先輩が、真新しいジュラルミン製のカラビナを見て、「これ大丈夫か!」と言った。そう言われて見れば、確かに作りは外国製の有名ブランドと比べて、造りがぞんざいのような気がした。その場では使うしかなかったが、結果は特に問題もなく、その後もしばらく愛用していた記憶がある。

 そんな時代からすると、ずいぶんバリエーションが広がって、耐荷重はともかく日常生活でも広く使われているのに驚くばかりだ。このカラビナも山から街に下りてきたアウトドアアイテムの一つである。ただ、繰り返すがクライミング用とアクセサリー用とは耐荷重と強度などが全く異なるので、選択にはくれぐれも注意が必要だ。


(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問など。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員