− 第602回 −  筆者 中村 達


『祇園祭は夏山のはじまり』

 京都に住んでいた頃は、祇園祭は子どものころから、夏の日常行事の感じだった。高校生時代は、祭りが始まるとそれが合図のように、学期末試験も上の空で夏山合宿のことで頭が一杯になった。夏山合宿の山域は、すでに春先に決まっていたので、ルートの選定に悩むことはなかったと思う。ただ、合宿は10日間ほどの長期だったので、登山装備を揃え、部の共同装備を点検するなど、それなりに忙しかった。それが楽しかった。

 祇園祭のお囃子を聞きながら、登山用具店に足しげく通った。ただ、当時はいまほど豊富に品ぞろえがあったわけではなく、リュックといえば帆布製の大きくて重いキスリングで、40kgは詰めることが出来た。寝袋は化繊のものが大半で、羽毛製は高価でとても高校生には買える代物ではなかった。固形燃料や細引き、ポリタンクなど消耗品が主な買い物だった。
 祇園祭が終わる頃、高校は夏休みに入り、いよいよ本格的な準備作業をはじめた。良くなったとはいえ、登山用の装備品は種類も少なく高価だった。衣類は透湿などというのは、少なくとも私には考えも及ぶわけでなく、棉素材ばっかりだったように思う。もっとも純毛もあったが、夏山では暑くてむいていなかったようだ。雨具はビニール製のポンチョか上下のカッパだった。ただ、高校時代は少々濡れていようが、汗をかこうが、汚れていようが、さほど気にすることではなかった。食料は質より量で、大量に買い込んだ。

 また、合宿には天気図用紙とラジオは必ず持ってでかけた。当時はトランジスタラジオといって、小型化はしてはいたが性能がいま一つで、特に高い山では電波がキャッチしにくかった。スピーカーを耳にあて、天気図をヘッドランプで照らしながら書き込んだ。
 地理授業で先生が、夏は小笠原気団が発達して日本を覆う。その時期、つまり7月20日頃から8月10日が、天気が安定するので登山に適している。ただ、落雷と夕立があるので気をつけないといけない、と解説があった。その先生の名前と授業の風景は、いまも覚えている。ただ、地球温暖化や偏西風の状態などで、この説もあやしくなったかもしれない。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員