- 第361回 -  筆者 中村 達


『ヒヨドリの巣』

 自宅の玄関扉のすぐ前にキンモクセイがある。ここ何日か、扉を開けると、そのキンモクセイから鳥がバタバタと飛び立つのが気になっていた。飛び立った鳥は、道路をはさんで向かいの家の屋根に止まって、こちらを観察している。どうやらヒヨドリらしい。
 キンモクセイをよく見てみると、鳥の巣らしいものがあった。どこかで拾ってきたのか、ビニールの切れ端を巣の底に敷いて、上手に作ってあった。
しばらくして、扉の窓からそっとのぞいて見ていると、つがいのヒヨドリが交代交代で卵を温めていた。

 なぜ、よりによって人間がすぐ横を通る、それも50cmほどしか離れていない所に巣を作ったのか。扉を開けたり、雨戸を開閉するたびに、2羽のヒヨドリは驚いて飛び立ってしまう。家人と相談して、驚かすとかわいそうなので、不便だが出入りは裏口からにすることにした。
 果たして、このヒヨドリ達は私たちに慣れて、驚くことがなくなるのだろうか。
 素人判断ではなんとも心もとないので、日本野鳥の会に電話して知り合いのレンジャーに聞いてみた。すると、すぐに的確な答えが返ってきた。
 ヒヨドリは巣を作るのに10日ほどかかり、卵は普通2~3個生む。孵化するまで2週間で、巣立ちまでは10日程度と短いが、繁殖生存率は低いそうだ。それに、最近では、カラスなどから襲われないようにと、人間の生活域で巣を作る傾向が見られるという。だから、扉のすぐ横に巣をつくるというのも、外敵から身を守るという防衛行動のあらわれだろうと教えてもらった。
 人間に慣れますか?とたずねると、学習して安全と感じたら、おそらく驚いて飛び立つことはないのでは、ということだった。

 家人にそのことを電話で話すと、実は、家を留守にして帰ってみると、道路に卵の殻が落ちていて、黄色い卵が広がっていた。巣をのぞくと、2羽の親鳥達はすでにいなかった。どうやらカラスに襲われてしまったようだ。かわいそうだが、どうすることも出来ないと落胆していた。そういえば、最近やたらカラスが家の周りを飛び回っていた。

 果たしてヒヨドリたちが戻ってきてくれるかどうか。野鳥の会によると、縄張りが決まっているので、戻って来なくても、近くで巣を作る可能性があるという。戻って来てくれればいいのにと願っているのだが・・・。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト/プロデューサー
安藤百福センター副センター長、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、NPO法人アウトドアライフデザイン開発機構代表理事、NPO法人自然体験活動推進協議会理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。