- 第207回 -  筆者 中村 達


『アウトドアのモノローグ スリーピングバッグ』

 子どもたちはスリーピングバック、つまり寝袋で寝るのが好きだ。私の子どもにも寝袋で寝る機会を随分つくった。キャンプだけでなく、友人の家に泊めてもらったり、スキーに出かけて車の中で仮眠するときにも役に立った。
 1990年代のオートキャンプブーム時は、寝袋はよく売れた。ただ、オートキャンプ用にと作られた寝袋は、徐々に布団化していって、とてもコンパクトといえない代物も出現した。
 そもそもアウトドアで使う寝袋は、コンパクト、軽量、保温性、そして寝心地の良さが求められるが、これらの要求をすべて満たすのは難しい。素材としては、化繊が安価で寝心地もいいが、総合的には羽毛が勝るように思う。耐久性も羽毛が優れているようで、私が使っている寝袋は20年ほど前に手に入れたものだ。いまなお健在で性能の劣化はない。寝袋はリュックサックに入れて担ぐのが原則だと思う。その為には、やはり軽量・コンパクトが必要十分条件だ。

 さて、寝袋で寝たことがない、という若者たちが増えてきたようだ。子どもたちも寝袋で寝る機会が少なくなっている。寝袋で初めて寝てみると、自由は利かないし寝返りをうつにも一苦労する。ジッパーを締めて顔だけ出すようにするのだが、寝ているうちにずれてしまって息苦しくなり、目を覚ましてしまうこともよくある。慣れとコツが必要だ。寝袋に慣れるには子どものころの体験が重要だろう。大人になってからでは馴染まない人も多い。
 ところで、寝袋の需要はかなり落ちてきているようだ。中高年の山歩きでは、泊まりはたいてい山小屋だから寝袋は必要ない。オートキャンプもブームは過ぎ去ったし、寝袋のニーズは低迷している。
 寝袋が売れていないということは、野外でテント生活をする人口の減少に他ならない。
 ある寝袋製造会社の社長が、このままでは会社の将来が危ういと、子どもたちを集めてキャンプ教室を行っている。子どもの頃に寝袋で寝ると、将来買ってくれるかもしれない。キャンプファンを子どもの頃から作っておくことが大切だと考えた。寝袋の顧客獲得のプロモーションだ。

 寝袋があると何かにつけ重宝する。自然体験活動やアウトドアレジャーだけでなく、震災などでも役に立つことがしばしばだ。阪神淡路大震災では被災者に、スポーツやアウトドアメーカーが寝袋を支援物資として送り、大変喜ばれたそうだ。
 防災グッズは地震が発生する度によく売れているようだが、避難や対策の中に、人間が生きていくための基本である「寝る」を是非とも入れておきたい。
 寝袋で寝ておく経験は、サバイバルに役に立つ。寝袋の意味はこんなところにもある。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアジャーナリスト。
NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。