![]() ![]() ![]() - 第187回 - 筆者 中村 達
『白馬岳登山の風景 2』 明け方まで嵐が続いた。どうやら気圧の谷が通過したらしい。気温が下がり寒くなった。山小屋というと、なんとなく狭く食事も粗末に思われがちだが、近頃はそうでもない。食事も随分よくなったし、快適に過ごせる山小屋も多い。中高年の要望に応えるためにいろいろと改善されたようだ。 その中高年登山者だが、朝はかなり早い。午前3時頃ともなると、トイレに頻繁に通い出し、そのあとは、出発の用意に忙しく、コンビニ袋がガサガサと音をたて始める。あの音だけはなんとかならないものか。毎回このガサガサ音で目が覚めてしまうのだ。私もその中高年の一人なので偉そうには言えないが、普段朝が遅い身にはかなりつらい。 ![]() 中高年登山者の特徴は、ツアー登山が多いことだ。この白馬岳登山でも多くのツアー登山のパーティに出会った。確かに、初心者や山に慣れてない人であれば、旅行代理店が募集するツアー登山に参加するのが、もっともてっとり早い方法だ。 ツアー登山も、日本百名山登山ブームあたりから、旅行代理店の参入が相次ぎ、山の上でも観光地のように、ツアーバッジを付けた登山者を数多く見かけるようになった。それだけにツアー登山の質にも随分違いがあるように思う。つまり、どのようなコンセプトで企画され、どんなツアーリーダーが引率ガイドしているかで、ツアー登山の質がかなり変ってくる。 もちろん、中高年者が山に登るのは、何と言ってもすばらしいことであることに違いはないし、ツアー登山の果たす役割は大きいように思う。 ![]() ツアー登山は集団だから、他の登山者達に迷惑がかからないよう配慮することが基本だ。 このあたりに、ツアーリーダーの資質がかかっている。それほど難しいことではないと思うのだが・・・。 ![]() また、立ち入り禁止の箇所でも、ロープの中に入ってお構いなしに休憩するパーティも多い。 白馬乗鞍岳に向かう北方稜線で、先行するツアー登山のパーティに追いついた。気の利いたリーダーであれば、大きな声で「道を空けてください!」と、後続者に道を譲るのだが、その気配は全くなかった。何の反応もないなあと思っていると、そのリーダーのトランシーバーから「事故発生!参加者が転落!」というのが聞こえた。20mほど先を歩いていた、同じグループの一人が転落したようだ。一瞬、このパーティはパニックに陥ったように見えた。狭い登山道で数十人の参加者が右往左往するので、他の登山者は通れないし、それより、また転落者が出るのではないかと、気が気ではなかった。 稜線から覗いてみると、およそ300m下のガレ場に登山者が横たわっていた。ひどい傷を負っているようだったが、命だけはとり止めた様子だった。奇跡のように思えた。たまたまその地点が、携帯電話が通話可能なところだったようで、なおかつ、晴れ間がのぞいていたので、40分ほどで県警のヘリが救助に飛んできた。 途中、すれ違った山岳パトロール隊の無線機から、「重症」で「○○病院に運びます」という声が漏れ聞こえた。ともかく助かって本当に良かった。 中高年ツアー登山の現実を目の前で見た山行だった。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 1949年京都生まれ。アウトドアコンセプター・ジャーナリスト。 NPO法人自然体験活動推進協議会理事、国際アウトドア専門学校顧問、NPO法人比良比叡自然学校常務理事、日本アウトドアジャーナリスト協会代表理事、東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサーなど。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。日本山岳会会員。 |