- 第104回 -  著者 中村 達


『飯盒で米を炊く不思議』

 新潟県の妙高市にある国際アウトドア専門学校の入学式に参列してきた。
 入学式のあと、同校の名誉顧問で筑波大学名誉教授の長谷川純三先生の記念講義を聞かせてもらう機会があった。
 先生は日本の野外活動、なかでもキャンプでなぜ飯盒を使うのか疑問だという話をされた。飯盒はもともと日本軍が弁当箱として使用したものだそうだ。戦場では移動も多く米が炊けないので、飯盒の中に握り飯を入れ、中蓋はおかず入れだった。もちろん時として、鍋にもなった。
 それがなぜ、野外活動でいまでも使われるのか不思議でならない、と先生は指摘する。飯盒で米を炊くというのは、その形状からなんとも熱効率が悪い。つまりエネルギーの無駄遣いだ。米を炊くには鍋がいいのに決まっている。熱効率が悪いようでは、美味しいご飯が炊けるわけはないのだ。
 そして、なんとも奇妙なのは、飯盒を裏返して、薪などで底を叩く行為だ。キャンプの現場で、指導者になぜ底を叩くのかと尋ねても、その根拠を話せるものは誰一人もいないのだそうだ。野外活動センターや自然の家などで、飯盒の底を見ると、どれもこれもみんなボコボコにへこんでいる。底を平に直しても、翌年には全ての飯盒が再びベコベコにへこんでいるという。まして、中蓋がオカズ入れだとは誰も知る由もない。実は私も恥ずかしながら初めて知った。

 こんな趣旨のお話だった。指導者は原理原則が何であるかということを、しっかり知っておく必要がある。飯盒をひっくり返して、底を叩くなどという行為には、なんら合理性はないし、なんとなく伝わってきただけで、伝承されてきただけで全く科学的根拠のないお話しなのだ。
 よくよく考えてみると、私たちもアウトドアでは、知らず知らずの間に変な癖を覚えてしまっているのかもしれない。そんなことを自戒もこめて考えさせられる講義だった。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。