- 第99回 -  著者 中村 達


『厳寒の十勝で思ったこと』

 北海道の十勝で地域振興の会議があり、招かれて参加してきた。少し時間があったので、帯広市内や近隣の観光地を、地元の方に案内していただいた。
 北海道の財政は厳しく、来年度は税収が500億円近くも不足し、このままでは数年後には赤字債権団体に転落してしまうのではといわれている。そこで、北海道では観光と食品(材)の産業に力を入れると新聞に書かれていた。
 実は今回の会議も、そういうことがテーマだったのだが、こと観光についてはいつも不満に思っていることがある。

 もう15年も昔のことだが、日本に来たパタゴニアの社主、イボン・ショイナード氏にインタビューをしたことがあった。日本のアウトドアフィールドのことをたずねると、「北海道があるじゃないか!」というこたえが返ってきた。
 確かに北海道は、本州にはない広大な自然が残るアウトドアランドだ。だから北海道といえば大地、森、原野、草原などのイメージが浮かぶ。観光といえば、この自然を抜きには語れないはずである。
 しかし、実際に北海道に出かけてみると、空港にはアウトドアのイメージを膨らませるものはほとんどないし、専門のインフォメーションもない。
 アウトドアを楽しみたいと思っても、公共の交通機関が山奥や原野にまでネットワークされていないので、まず、アクセスに困ってしまうのである。

 数年前、旭川に仕事で出かけたついでに、大雪山にも登ってみたいし、渓流釣りもしたいと欲張ったのだが、なにぶん飛行機なので道具をコンパクトにするのに大変苦労したことがあった。せめて、現地にレンタルのシステムでもあれば、ずいぶん助かったことだろう。

 何度となく北海道に行って、観光案内所などで「どこの川が釣れる?」と聞いてみても、満足な答えは返ってきたためしがない。フィールドの情報やインタープリテーションについても、ロクな答しかかえってこないので、あきらめてホームページなどを自分で調べている。シンポジウムや会議で、このことをいつも指摘するのだが、・・・・・。

 さて、帯広市内のアウトドアショップに立ち寄ってお話を聞いてみた。子どもの用品やウェアが少ないのでその理由を尋ねると「ここでは子どものものは売れません。さしてアウトドアにも出かけないし・・・。」と意外なこたえが返ってきた。
 北海道はアウトドア王国のはずなのだが、どうもそんな風ではない。観光イコールアウトドアだとは必ずしも断定はできないが、なぜか、こと北海道のアウトドアには消化不良がいつもつきまとうのだ。
 そんなことを思いつつも、凍結した然別湖上のアイスバーでワイルドターキーを飲みつつ、やっぱり北海道はアウトドアだなあ、などとわけのわからぬことを言っていたらしい。

(次回へつづく)


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■著者紹介

中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。