  
- 第41回 - 著者 中村 達
「遊漁券」
遊漁券とは川で魚を釣るための許可書である。入川券というところもある。この遊漁券は、地元の漁業協同組合が管理・発券していて、日券と年券がある。日券は1000~2000円、年券が5000~10000円というのが相場である。遊漁券は地元の商店やコンビニ、ガソリンスタンドなどでも販売している。
遊漁券を買うのは義務
漁協では岩魚、虹鱒、あまご、やまめ、鮎などの渓流魚を放流して、釣を楽しめるようにしている。だから釣をするのなら、遊漁券を購入するのは当然だと思うし、国内の主な渓流では、遊漁券を買わないと釣はできないことになっている。たとえ一匹も釣れなくても、百匹以上釣れても、不合理だ思うけれど遊漁料は同じである。
わたしのようにフライフィッシングをする人種は、キャッチアンドリリースがほとんどだと思うが、それでも遊漁券は買わなければならない。
では子どもたちが、川むつやオイカワなどを釣るのに遊漁券が必要かといわれれば、普通はいらない。なぜなら、それらは放流魚ではないからだ。それに、ちょっとやそっとでは、岩魚などの高級魚?は釣れない。
イギリスは日本の10倍以上
この金額が高いか安いかは論議のあるところだが、イギリスなどでは、日券でも数万円、年券だと数十万円から数百万円と驚くほど高い。これは、渓流釣なかでもフライフィッシングは、貴族の遊びとして発達してきたし、鱒を放流し管理するにはかなりのコストがかかるからだと、ものの本で読んだ。
年々少なくなる渓流漁
ところで、遊漁券を買ったから釣れるかといえば、はっきり言って、最近ではかなり上達しないと釣れない。もっとも、放流日直後だと、養殖された魚たちは、急に自然界に放り込まれたので、何がなんだかさっぱり分からなくなって、しばらく同じところから動こうとはしないようだ。警戒なしに何にでも食いつくので、ミミズでもイクラでもぶどう虫でもどんどん釣れる。フライもおなじである。川が一時的に天然のいけす状態になるわけだから、当然といえば当然だ。しかし、この直後の一時期を除けば、ガックと釣果は落ちる。魚たちも賢くなって、ちょっとやそっとでは、騙されなくなるからだ。解禁日から数ヶ月経過した6・7月ごろになると、非常に難しくなる。まして、放流が全くされていない渓流では、奥地を除いて魚影を見ることは無いに等しい。
もっとも、いまや魚の数よりも、釣り客の方が多いのではないかと思われるほどなので、釣りもますます難しくなってきた。
「遊漁券、持っていますか?」
先日、仲間を誘って地元のダム湖に出かけてきた。40cmの虹鱒狙いであった。私も目撃したし、うわさも数多く耳にしていたので、早朝からいそいそと車を走らせた。時間が早く、遊漁券販売所はまだ閉まっていたので、帰り道に支払うことにして、湖面にロッドを振り始めた。しかし、この日は私も仲間たちもさっぱりだった。何度かあたりはあるものの、まったく釣れなかった。仕方がないので、川がダム湖に流れ込むポイントに移動して、小物狙いに目的を変えた。
しばらくすると、漁協の監視員がやってきた。「券持ってますか?」「いいえ、朝が早かったのでまだ買っていません。」「では、いま買ってください。2千円です。」「えっ!ここは1000円じゃないの?」「高圧線より上流は2000円です。」と言われたので、空を見上げると、高圧線より2mほど下流だった。
そう指摘すると、その監視員は空を見て、バツが悪そうな顔をして、「じゃあ1000円いただきます。」いい加減なものだと思ったが、あと数分監視員が来るのが遅れていれば、2000円区域内に入っていたことになり、合わせて3000円を払わなければならなかった。
しかし、この区間設定は監視員によって異なっていて、前回来たときは少し上流にある橋までが1000円区間だった。こうなってくると、大雑把で曖昧で、なんだか世知辛い。
放流事業は赤字
遊漁券を買わない釣り人も多いと言われている。それに、多くの漁協は放流事業では赤字だと聞く。
ただ、ひとりの釣客としての立場から言えば、遊漁料を払っているのだから、せめて川のゴミだけは何とかしてほしいと思う。もちろん心無い釣客が放置する弁当の殻やコンビニ袋も目にはするが、圧倒的に多いのが、川の周辺部の集落から放棄されたと思われる生活ゴミだ。
この日、ダム湖がつくりだした美しい湿地帯では、亀や大量の鯉がゆうゆうと泳いでいた。しかし、周囲にはなぜか風呂桶やゴムホース、トタンなどが廃棄されていた。
(次回へつづく)
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■著者紹介
中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。
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