  
- 第24回 - 著者 中村 達
「北山パーティ」
先週の土日、京都北山のキャンプ場で、パーティがあった。
25年ほど前、高校の後輩が新聞記者で、兵庫県の山奥に転勤になり、そこで猪肉が手に入ったので、山で一杯飲もうというのがきっかけだった。高校時代に所属していた山岳部顧問の呼びかけて、山岳専門誌の編集者など数人が集まった。北山の林道の脇にテントを張って、猪を肴に、夜通しで飲み明かした。
その後、春は山菜、冬は猪肉というパターンで、京都北山の山中を転々としながら、現在の鞍馬の奥山に落ち着いた。私も最初の頃は、それなりに手伝いもしたが、いまではすっかり客人になってしまった。必ずしも毎回出席できているわけでもないが、参加するたびに、趣向が凝らされているのが楽しみである。
今年は金沢の大学助教授が、獲れ獲れのブリ、アンコウ、甘海老など、新鮮な魚介を運んできて、目の前で手際よくさばいてくれた。彼も高校の山岳部の後輩だ。山の中で、なんとも贅沢な饗宴だが、その準備や企画作業は、さぞかし大変だろうと思う。スタッフ達は、夜に何度も集まり、趣向を考え、準備作業をすすめる。食料、お酒、テント、それに車のない人へのアテンド。何しろ、毎回40名も参加する山の中のパーティだけに、その作業はかなりの量になるものと思う。
この北山パーティのメインイベントは、参加者全員が一人一人「スピーチ」することだ。少しは気の利いたことを話さなければと、何日も前から思案する参加者もいるらしい。今年の北山パーティで、スピーチが終了したのは、明け方だった。
北山パーティがきっかけになって、幾つものイベントが生まれた。そのひとつが、ヒマラヤ登山。主宰者の顧問が、「おい、いこけえ!」などと言ったのがきっかけになった。
チベットのトレッキングや中国の旅、シルクロードの旅行など、数々のエクスペディションも、北山パーティが、何かしら役割を果たしていたように思う。今年は60歳以上のメンバーばかりで、タクラマカン砂漠を横断して、カラコルム山脈を抜け、戒厳令下のパキスタンに入るという、ちょっとした遠征旅行が行われた。
北山パーティの参加者は、学校の教師、大学の先生や研究者、サラリーマン、医師、中学校の校長、デザイナー、コンピュータのエンジニア、ソフトウェアの開発者、雑誌の編集者、新聞記者などなど、実に多彩だが、唯一の共通点は、自然が好きだということだろう。
好き好んで寒い山の中で飲むより、祇園や河原町のほうが楽しい、と言う人がまだまだ多いだろうが、発想を切り替えるには、自然の中にいるほうがいい。そんなことを知ってか知らずか、今回もたくさんの参加者があった。今年は冬が早く、すでにナラの葉はすべて散っていた。鉛色の空は、弱い冬型だった。
自然の中で、大人は子どもになり、子どもは大人になる。今回の北山パーティでも、そう思った。
(次回へつづく)
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■著者紹介
中村 達(なかむら とおる)
1949年京都生まれ。アウトドアプロデューサー・コンセプター。
通産省アウトドアライフデザイン研究会主査、同省アウトドアフェスタ実施検討委員などを歴任。東京アウトドアズフェスティバル総合プロデューサー。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルムラットクI、II峰登山隊に参加。
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