第75回「~ 結局、似てます」 著者 村田 浩道


 今月(9月)はお彼岸法要の月である。このお彼岸は日本独特の宗教行事であって、本家中国にはこの行事はない。日本にはご先祖を大切にお祀りするという習慣と、山野への季節の感謝とが一体となって、春と秋にこのお彼岸が存在するのである。くしくもこの月に私の師匠(父親)の7回忌法要も厳修されることとなった。

 私の父親は、まぁ、絵にかいたような昭和のパワハラ親父だった(笑)。その頃はみんなそんな感じだったかもしれないが、現代の家庭では考えられないような日常が繰り広げられていたものである。
 実家が禅宗寺院という特徴もあって、親父といえど師匠であるから、中学生にあがっても、親父には敬語でしか話したことがなかった。このことからその特殊な状況は推察しいただけると思う。
 そんな関係性だから、一緒に遊ぶだとか、旅行だとかは本当に数少ないが、少ない方がやけに記憶に残っているものだ。

 一つは松茸とり、当時は私の地域が管理している山にも松茸がでた。半ば強制的に連れられていった初めての松茸取りは小学校3年生ぐらいだった。親父にとっては“連れて来たやったものの、足手まといだな・・・”だったのだろう。

 突然「この目の前の斜面をずっと登って行け」、「林道に出るから」と言い残し、自分は違う場所へと消えていった。山中に取り残される不安と、林道に出た後はどうするんだろう?1人で帰るのかな・・・。という先の見えない恐怖を打ち消すのに、とにかく必死に斜面を駆け上がった。真っすぐ登っているつもりだが、行けども林道には出ない。急斜面で足を滑らせて手をついた所に栗のイガがあって、手のひらから手首にかけて何本も刺さった。
 半べそをかきながら泥だらけになって斜面を登っていると、ようやく遠くにガードレールのような物が見えてきて林道にたどり着いた。しばらく林道で待っていたが父親は現れない。そのうち、もしかしたら俺は遭難してる?など色んな妄想が湧き起こってきた記憶がある。最終的には無事に帰ったから冒険で済んだ。
※画像はイメージです。


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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。