第71回「植物からのメッセージ」 著者 村田 浩道


 たまには山のガイドらしいお話もしておこうと思う。
 私の知るところでは、この地球上の陸上に暮らす生物の総重量は470Gt(ギガトン)で、人間や昆虫、鳥、すべての微生物などを併せても総重量の4.5%にしか満たないそうだ。残る全ての重量は植物であり、陸の王者は植物なのである。まぁ、確かに周りを見渡してみれば植物だらけであるからうなずける事実である。
 では、これほどまでに繫栄している植物界は、“お互いの情報共有やコミュニケーションはあるのか?あるとすればどうなっているのだろうか?”これは私が山を登ったり、自然の中で遊んだりしている時にちょくちょく気になっていた事であった。他の動物や昆虫などは声や音または発光するなどして、人間の様な言語をもたなくても、コミュニケーションをとる手段があるので協力や情報共有が容易で、種の繁栄や存続も可能になっている。

 一方、音や言葉を発しない植物はあんなに多く存在しているが、どうやって種を維持して繁栄に繋げたんだろうな。と考えることがあった。
 その疑問はあるときのBS番組で取り上げられていた、番組によると植物はお互いに情報共有をしっかりと取っているのだそう。虫に食われれば周りの植物に知らせることで、周りは虫に食われる前に毒素成分を生成したり、昆虫や鳥にもメッセージ(匂い成分が多くを占めるらしい)を発信し、自分を蝕む虫の天敵となる昆虫や鳥を呼び寄せているという研究結果が出ているというのである。しかも、植物たちは地下で菌糸を介してどんどん繋がり、弱い幼木や種別の違う植物とも養分を分かち合っているというのだから驚きである。物言わぬと思われる植物であるが、その実は、多くのメッセージで情報を共有し、我々が見えない部分で種別を超えた協力体制で繁栄を遂げているということだ。

 私たち人間は、協力、協調、寄り添い、繋がる、絆など沢山の耳ざわりの良い言葉を使って見せかけてはいるが、その実、争いや差別はなくならない。全人類が自分自身は弱い存在なんだと自覚することができれば、見せかけだけではなく、お互いを尊敬尊重し、争いごとは無くなるように思う。植物に爪があれば垢でも煎じて飲みたいものである。



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■著者紹介

村田 浩道(むらた ひろみち)
日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター
NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。
高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。