![]() ![]() ![]() 第66回「トレイル制作話⑨」 著者 村田 浩道
私は本当に困っていた。時期はすでに2月であるし来年度の予算も、事業計画も決まっている。最終年度を迎えるに前に、何とか一体となってこの事業を成功にもっていきたいのである。なんでこんな事になったのか。ピンチになった自分自身にも苛立つし、やっぱり他の誰かのせいにもしたくなる・・・。でも間違いなく自分の仕業で不徳の致すところだ。あーイライラする・・・。でもここは一旦ニュートラルに戻ろう、自分の立場じゃなく、もう一方の立場に立ってみよう。なんだか冷静になれたのはやはり『禅』の精神修行の成果か(笑)など考えながら車で事務所へ戻った。 ![]() こちらがもう一方に乗っかってしまえばよい。事業の本質も地元地域の振興に他ならないんだから、地元の皆さんに乗っかってしまえばよいやん!!。まぁ、名案というか今思い返せば、地域の人たちへのリスペクトも交流の場も、意見交換も中途半端だったのである。 早速、地域で作られた【名田庄トレイルランニング運営協議会】への参加をお願いし、同時に次年度のトレイル整備予算の一部を、この協議会が開催を目指している《第1回名田庄トレイルランニングレース》予算として支出したい旨を申し出た。 やっぱりお釈迦様も道元禅師も偉大だ、他の者を自分自身と捉え、深く理解したその後に、自分を他の者に理解してもらえとおっしゃった。正にであった。レース開催へ向けて何度も打ち合わせを重るうちに、コミュニケーションは密になり、大切な予算は地域振興が見える形で、地域の皆さん賛同のもと使えるのだからこれ以上ない形となった。何とか名田庄トレイルの目標と目的を、地域と共有し活動を一つにしていくことに成功した。 こうしてようやく開催までこぎつけた『第1回名田庄トレイルランニングレース』は、あっという間に150人参加枠が埋った。地域の方々、名田庄地域振興に携わる多くの方、また多くのボランティアに支えられ、事故もなくたくさんのポジティブなご意見もいただいた。その結果、大成功と言える内容で終えることができた。 不覚にも最終ランナーが無事にゴールした時には目頭が熱くなり、本当にこの事業を提案し始めることができて良かったと心から思えた。トレイル整備という事業をしていて一番幸せな瞬間であった。トレイル事業とは道づくりそのものを見れば公益である。そして、その道には地域活性、教育、健康福祉をはじめ多くの振興事業を見通すことができ、そこにビジネスモデルも生まれる。この多様性こそがトレイル制作を行う魅力なのだ。 ■バックナンバー ■著者紹介 村田 浩道(むらた ひろみち) 日本山岳ガイド協会認定ガイド、トレイルコーディネーター NPO法人日本ロングトレイル協会理事・事務局長、NPO法人高島トレイルクラブ理事ほか。 高島トレイルをはじめ、全国のトレイル活性化事業にたずさわり、ロングトレイルとビジネスをテーマに活動している。また、禅宗僧侶として、禅と登山についての考察も日々おこなっている。 |