ホール・アース自然学校


「アニマルトラッキング」

アニマルトラッキングは、鑑識課
 冬晴れの済みきった青空に、最高潮に達した富士山の雪化粧がすばらしく映える1月。
 僕は富士山麓の西臼塚原生林に来ていた。「アニマルトラッキングって警察の『鑑識課』と同じなんだよ。みんなはこれから森の探偵団だ。姿が見えなくても、この森に住んでいる動物の証拠がどこかに残っているはず。誰がいちばんたくさん見つけられるかな?」
 寒さに首をすくめる僕の耳に、『インタープリター・じょりぃ』の元気な声が飛び込んできた。
 そう、今日僕は、動物の足跡を探しに一面の銀世界に遊びに来ているんだ。

探偵には冬が一番いい
 ふかふかに積もった雪景色の中では、動物たちもさぞかし寒さに耐えて、じっとしているのかと思っていたけど、ところがどっこい、彼らは元気に走り回っている。
 しかも雪の上にしっかりと足跡が残るから、探偵をする僕らにとって、冬は一番いい季節。『じょりぃ』によると、この森にはイノシシ・ノウサギ・シカ・タヌキ・キツネ・テン・ノネズミ・リスなどが住んでいるらしい。この白い世界のどこかに彼らがいる!そう思うとなんだかワクワクしてきた。 
 さぁ、出発だ!

うんちで、なわばりを宣言
 歩き始めてほんの5分。親指大の黒っぽい物体が、僕らの目の前に!『じょりぃ』が、うれしそうに(^^)つまんで、鼻先でクンクン。しばらくじっと見つめる。「ちょっと匂うね。何を食べたんだろう?」なんて言いながら、ほじくりだした。
 「小さな毛も見えるね。食べられちゃったネズミのものかな?」雪の上だと、足跡だけでなくこんな「落し物」も簡単に見つけられる。この糞の「持ち主」はどうやらテンらしい。
 お父さんは「こんなに見通しのいいところでトイレをするなんて、勇気のあるやつだなぁ」と妙に感心していた。動物たちは、うんちでなわばり宣言をしている場合もあるそうだ。

このウサギは、どっちに進んだ?
 この糞が「運」を呼んだのか(^^)、それからはもう発見の連続だった。まずはキツネの足跡に絡むヤマドリの足跡。このヤマドリはもう食べられちゃったのかなぁ?それからノウサギ。小さな丸い足跡が縦に並んで2つ。その先に楕円形の大きな足跡が横に並んでいる。
 『じょりぃ』がニヤニヤしながら、「このウサギはどっちに進んだでしょうか?」なんてクイズを出した。ウサギの後ろ足が大きいことぐらい僕でも分かるから、当然小さな前足の方向だと思って自信たっぷりに答えたら、「ざ~んねんでした。これはひっかけ問題。止まっているノウサギがジャンプすると、前足のすぐ前に大きな後ろ足の跡がつくんだ。だからこの場合はこっち」と、180度反対の方向を指差したんだ。
 「ノウサギの後ろ足が大きいのは、雪に体が沈まないように、カンジキの役目を果たしているからなんだよ」じょりぃに言われると、軽やかにぴょんぴょん飛び跳ねているノウサギが、目に浮かんでくるみたい。

きつねも苦労
 ひょっとして、この足跡をたどっていけば、ウサギの巣に辿りつくんじゃないか、なんて考えていたら、ノウサギは、わざとあちこちにたくさんの足跡を残し、どっちに行ったのか分からなくして敵の目をくらますこともあるってことも教えてくれた。
 でも単純に、まわりを警戒して歩き回っていることだけってこともあるそうで、ノウサギの気持ちになってみないと分かんないんだって。
 この日、最後に出会ったのはキツネの足跡。おもしろいことに、一直線上に足が並んでいたんだ。胸の幅が狭く、前足の跡に後ろ足を重ねるために、こんな不思議なラインになるらしい。なるべく足音を立てないように、できるだけ同じところを歩く工夫をしているそうで、狩りの名人と呼ばれるキツネも、いろいろ苦労しているのかもしれないな。

動物たちに見られているかも
 帰り際、『じょりぃ』が突然「皆さん、ちょっと後ろを振り返ってみてください。」と立ち止まった。見ると、僕たち人間の大きな足跡が、ずっと森の奥から続いている。こんなにはっきり跡を残しちゃったら、動物たちも警戒するだろうなと考えたら、ふと周りの樹々の陰から、たくさんの動物たちがこちらの様子を伺っているような気がしてきた。
 森の探偵団になった今日1日、ひょっとして観察されていたのは、僕たちのほうだったのかも。雪のある冬だからこそできたアニマルトラッキング、今度来るときはもっと優秀なシャーロック・ホームズになってやるぞ