![]() ![]() ![]() − 第679回 − 筆者 中村 達
『山での災害』 連休のさなか、北アルプスで地震が発生した。穂高、槍ヶ岳などでは地震の影響とみられる落石が頻発して、登山者がヘリで救助される事態になった。TVには槍ヶ岳北鎌尾根の上部と思われる箇所で、登山者の真横を大きな岩が剥がれ落ちるような様子が映し出されていた。さぞ恐ろしかったのではないかと想像する。救出されて良かった。 幸いにして、私は山に登っていて、体に感じるような地震にあったことはない。しかし、岩を攀じっている最中に、もし、ここで地震がおきれば、この岩が剥がれてそのまま滑落していくのだろう、と想像したことは何度もある。尾根道や縦走路であれば、比較的安全かも知れないが、岩壁、岩稜や急峻な溪谷では、地震が発生すれば、まずは落石から逃れる術を考える必要がある。ただ恐怖で、冷静な判断ができるかどうか、その時になってみないとわからないような気もする。 ![]() 岩壁に取り付くのに、急な谷筋の雪渓を登っていた。両側の壁は落石や雪崩で削り取られたようで、凹凸が少なく磨かれて不気味だった。この急峻な谷、いやクロアールは、頭上に300mは続いていた。 突然、ゴーンとクロアールに岩がぶつかる音が響いた。すると、ブーンと唸りながら私をめがけて岩が飛んできた。はっきり見えた。とっさに、雪渓の割れ目に身を縮めた。 気がつくと頭こそ免れたが、上腕に直撃した。しばらくは恐怖で、そのままの姿勢で横たえていたと思う。そのあと、クロアールに焔硝のような匂いが漂った。 意を決して、無我夢中で左岸の壁に取り付き、安全なところまで攀った。気持ちが落ち着くと、腕が痺れているのに気がついた。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー 安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員 |