− 第678回 −  筆者 中村 達


『アウトドアでの危険が増えた』

 いま、コロナ禍で社会が閉塞状態だ。何もかもフリーズのように感じる。閉じこもっていて、以前の日常生活とは程遠い状態である。そのせいか、とりあえずは三密が避けられそうなアウトドアに出かける人が増えている。これは日本国内に限ったことではなく、欧米でもアウトドアが人気で、トレイルにも沢山のハイカーがやってきて、ホットスポットが発生しているという。

 一方、私たちの生活圏と自然との距離が近くなって、野生生物との棲息圏が重なるようになった。人口の高齢化による中山間地域の過疎化によって、緩衝地帯が少なくなり、自然からいきなり人家という状態が増えたように思う。そこにコロナ禍で、アウトドアズがブームになって、自然に入る人たちが増えてきた。
 そのためか、野生生物に宿生している様々な微生物が、野生動物だけでなく、人間にも生息域を広げようとしているようだ。近年頻発している熊の出没や、イノシシやシカなど増加が各地で見られる。これらの野生動物のほか、ノウサギやネズミなども様々な感染症を媒介する。

 そして、いま危惧されているのが、マダニによるウィルス感染症だ。重症熱性血小板減少症候群 (Sever fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)という。主な症状は発熱と消化器の症状で,重症化して死に至ることもある。最近、これらの報道をよく見聞きするようになった。何しろSFTSの有効な治療薬やワクチンがないので、対処療法に頼るしかない。また、野生生物の他、感染した犬や猫からもSFTSのウィルスが検出されているので、日常生活でも注意が必要とされる。

 SFTSを防ぐには完璧ではないが、マダニの忌避剤(虫よけ剤)が有効で、アウトドアに出かける際には、しっかり噴霧しておくこと。また、長袖、長ズボンなどを着用して、肌の露出部分を極力少なくすることも大切だ。なお、マダニ対策は国立感染症研究所のHP(https://www.niid.go.jp/)に詳しく記載されている。

 いま、アフターコロナでは、アウトドアへ出かける人が多くなると予想される。自然はすばらしいし、アウトドアライフは心と身体を癒してくれる。しかし、その一方で野生生物の生活圏には、様々なリスクがあることを知っておく必要があるし、その対策をしっかりしておくことも重要である。
※画像はイメージです。


(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員