− 第656回 −  筆者 中村 達


『フォントサイズが・・・』

 新型コロナウイルス感染症が拡がる一方で、地方の街もその影響が出ている。緊急事態宣言は発出されていないものの、県は京都、大阪などへ出かけるのは控えてほしいと言っている。再び自粛生活である。どこへも行かず、自宅と仕事場の往復のみの毎日だ。ただ、WEB会議が増えた。
 自粛生活では何となく読書が多くなってくる。古い雑誌をペラペラとめくったり、山の写真集を眺めたりして、海外の山々に思いを馳せたりすることも多い。

 本棚に鎮座している全集がいくらかある。全集の大半は、私の20歳代に買い揃えたものと思う。ヒマラヤ名著全集とか深田久弥全集など、やはり山にちなんだものが多い。しかし、恥ずかしながらその中で読んだものは、ほとんどない。正確には収録されている主なものは、文庫本や単行本で読んだ気がする。全集は通勤や出先で読むには大きくて重いものが多く、携行するには具合が良くない。また、寝っ転がって読むには重いので、これも私には向いていない。結局、本棚のインテリア?になってしまっている。

 そんな全集だが、本棚の奥に北杜夫の全集を見つけた。全15巻だ。その第5巻に『白きたおやかな峰』が、『天井裏の子供たち』などとともにあった。中でも『白きたおやかな峰』は懐かしくて棚から引き出してみた。埃を被って、天の部分は褐色のシミが点々と拡がっていた。
まだ海外渡航がままならない時代の1965年に、京都からカラコルムのディラン峰(7,273m)へ出かけた登山隊の実話を元にした、書き下ろし小説だ。この小説でカラコルムへの憧れがいっそう強くなった。

『白きたおやかな峰』は、単行本が出たときにすぐに買って、むさぼり読んだ記憶がある。本棚の奥から、単行本を探し出した。奥付きの横に私の字で1968年と記していた。全集の発行年の1976年より8年ほど前に読んだことになる。だから全集の方は読んでいないと思う。

あらためて全集のページを開くと、文字のフォントサイズが小さくて、二段組になっていた。老眼が進んでくると大変読みづらい。  その時代は、若者の人口比率が高く、彼らを読者の中心層に捉えていたのだろうか。現在の図書は、高齢者でも比較的読みやすいフォントサイズだし、新聞の文字も大きくなっている。
 時代の移り変わりを実感した自粛生活である。


(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員