− 第650回 −  筆者 中村 達


『焚火』

 焚火はいい。炎を見ているだけで癒される。特にいまの時期は落ち葉が燃える匂いが、何ともいい。なぜ私たち人間は炎に引き付けられるのだろうか。ともかく理屈は抜きにして、炎に手をかざしているだけで言葉はいらないように思う。

 もう半世紀も昔の話だが、当時も規制はあったものの山で焚火をすることに、それほど厳しいルールはなかったような気がする。京都北山や比良山系の山々で、キャンプをした際、よく焚火をした。いかにうまく火がつけられるかが課題だった。激しい雨の中で火を焚く術を先輩や先生から教わった。一方で火の始末も徹底的に教えられた。完全に消えるまで何度も水をかけた。もちろん清掃も。

 カラコルム登山のキャラバンでは、ポーターたちが炊事と暖をとるために焚火をしていた。ただ、そこは砂漠が隆起したような地形なので、樹木は少なく貴重だった。ポーターたちは小さく細い枝を集めてきて、紙も使わずに巧みに火をつけた。細く小さな炎が立ち上がった。その火の上でチャパティーを焼いて、ミルクティーを沸かしていた。
 毎夕、彼らの食事が終わる頃を見計らって、焚火の輪に入れてもらった。いつも「サーブ」ここに座れ、と席を空けてくれた。言葉はほとんど通じないが、焚火を囲むだけで気持ちが通じ合った気がした。

 いまは、焚火が出来るところも限られている。キャンプ場も直火も禁止されているところが多いので、焚火台のようなものを使わなければならない。それでも焚火の魅力は変わらないし、いつの時代も癒してくれるのが焚火の魅力である。
※画像はイメージです。


(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員