− 第648回 −  筆者 中村 達


『ラジオ』

 いま、ラジオが静かなブームだそうだ。コロナ禍で自粛生活やテレワークなどが増えて、自宅で仕事をしながらラジオを聞く人が増えたのだろう。テレビをつけながらの仕事は、集中力の妨げになる場合が多いが、ラジオなら聞き流せるし、さほど邪魔にならないというのが私の感想だ。
 スマホで「らじる・らじる」や「radiko」で簡単に選局できるので、とても便利になった。
 しかし、私のような古い時代の人間は、どうしてもスマホではなく、ラジオで聞いてみたい。

 学生時代山岳部で長期間山に入る時には、必ずラジオを持参した。これは天気予報を聞いたり、気象通報で天気図を描くためには必携だった。トランジスタラジオという、当時の最先端のものを持って行った。とはいえ、お金がなかったので決していいものではなかったと思う。良くなかった山岳地帯の電波状況で、スピーカーに耳を当てながら聞き逃さないように天気図を描いた。

 また、これもずいぶん昔のことだが、ヒマラヤのベースキャンプで、一日2回放送された登山隊向けの天気予報を、日本から持って行った大型ラジカセで、耳を凝らして聞き入った。ただ、毎日が「Today is fine. Temporary thunderstorm.」だった。予報はかなりの広域圏で、それに山々は7000m級の高度だったので、そんなものかもしれないと思った。

 私の仕事場ではパソコンにレシーバーを接続して、設置したスピーカーでラジオを聞くことが多い。自宅では10年ほど前に買ったラジオを使っていた。が突然、選局ダイヤルに不具合が発生して、ついに音が出なくなってしまった。原因はよくわからないが、寿命だろうと諦めて、ネットで買うことにした。
調べてみると、ラジオは随分安いのだ。こんなに安くていいのか、と思うぐらいだ。数千円も出せば、有名メーカー製(海外生産だが)が買える。

 翌日、ラジオが届いた。10センチのスピーカー付きで、デジタルチューナーとかで選局もバッチリ。音もこの価格にしては十分だ。ラジオがこんなに安く購入できるとは・・・。
 購入した真新しいラジオで音楽を聞きながら、テントで天気図を描いた頃を思い浮かべた。
※画像はイメージです。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員