![]() ![]() ![]() − 第640回 − 筆者 中村 達
『夏山でダブルボッカ』 8月10日は「山の日」だ。「山の日」は、国民の祝日で山(自然)の恩恵に感謝し、山に親しむ日である。今年は残念ながらCOVID-19の広がりで、大分県の九重山山麓での記念大会は、来年に延期となった。記念大会に出席して九重山に登り、湯布院で温泉にでも、と考えていたので残念だ。 夏になればいつも頭の中は、夏山登山のことでいっぱいだった。春先からトレーニング山行をして、必要な装備類を少しずつ買い揃えた。ネットどころか、通販もままならない時代だったので、足しげく登山専門店に足を運んだ。 夏山は剣岳が多かった。高校山岳部の合宿は、アルプスを縦走したのち剣沢でテントを張り、内蔵助カールで雪上訓練をして、剣岳などを登った。 大学時代も剣岳だった。合宿を終えて帰宅したのち再び剣岳に出かけた。剣沢のテント場で、黒部川を遡行した先輩たちと合流するために、彼らの食料・装備なども担ぐことになった。 特大のキスリングを背負子にセットして、食料を詰めた一斗缶をその上に括り付けた。立ち上がるのも大変で、京都駅に着いた時には汗でシャツがずぶ濡れになった。 ![]() ![]() バスはまだ舗装されていなかった室堂までの山道を、土埃を舞いあげてのぼった。室堂にはプレハブの待合室と売店があったように思う。 計量であまりの重さに意気消沈したが、気を取り直して、剣沢までダブルボッカをすることに決めた。雷鳥沢のテント場に半分に分けた荷物をデポして、剣沢まで、片道3時間ほどの行程を急いで登った。その際、急に空模様が怪しくなって、雷が鳴り出し、時折稲妻が走った。キスリングにしばりつけていたピッケルが、ブーンと音をたてた。恐ろしかったが、隠れるところもないのでそのまま登り続けた。 ようやくたどり着いた剣沢で、とりあえずテントを張って、再び雷鳥沢へ残りの荷物を取りに急いだ。雷鳥沢で見回りに来た山小屋のオヤジが、「Wボッカか!エライ!エライ!」と、褒めてくれた。 夏山シーズンになると、いつも思い出す一コマである。 (次回へつづく)
■バックナンバー ■筆者紹介 中村 達(なかむら とおる) 京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー 安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。 生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員 |