− 第630回 −  筆者 中村 達


『GWの登山自粛要請』

 山岳4団体(山岳・スポーツクライミング協会など)から、GW期間中の登山自粛要請が出た。山は空気も綺麗で人も少なく、三密の可能性は低いので、登山は大丈夫と思いがちだ。  しかし、例年GWには中でも有名山岳に、おおぜいの登山者が訪れる。また、登山口の山麓には温泉街や景勝地などもあって、全体が観光地となっている場合が多い。いずれも自然が豊かで歴史や趣があって、何度出かけても楽しめ、どこもかしこも人気だ。が、そこは三密が発生する可能性が高い。

 いまは平時ではない。新型コロナウィルス感染症が、大都市から地方へと広がっている。この流行を何とか食い止めるのが、いま、全国民が協力して行う最善の策のひとつだろう。
 有名山岳の登山口や裾野は、過疎や高齢化がすすんでいる。医療体制も不十分なところが多い。だから例え登山や山岳観光であっても、多数の人たちが訪れれば、知らず知らずのうちに感染を広げてしまう可能性がある。

 また、例年GWには、日本アルプスや残雪がある山々での遭難事故が多発している。その結果、多くの救助隊員や山岳関係者が救助に向かう。しかし、事故が発生すれば、救助隊は万が一の感染に備えて、防護服着用しての救助になるのではと思う。ただでさえ、危険な救助作業に、感染症の対処までしなければならず、困難を極めるだろう。

 「自分は大丈夫!」は、山では全く通用しない。近郊の山々でも、報道がされない山岳事故は多く、私の知人の山岳関係者も、行方不明者の捜索に出かけることがあるという。
 少し前の話だが、GWに近郊の山へ出かけた。下山中、登山道で横たわっているハイカーと出会った。どうやら足を骨折したらしい。すでに救助隊がすぐ近くまで登ってきたと知って、ホッとしたことがあった。ハイキングにちょうどいい1,000mほどの山でのことだ。
 今年のGWは、大変残念だがステイホームだ。これまで読めなかった山岳図書やアウトドア本を読んだり、たまりにたまっている写真や画像の整理でもと思う。山登り、登山、ハイキングなどは自粛したい。山は、なくならないから。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員