− 第620回 −  筆者 中村 達


『雪不足』

 暖冬で全国的に降雪が非常に少ない。滋賀県に移住して30年以上経つが、1月も半ばになろうというのに、当地での降雪はまだない。こんなのは初めての経験だ。暖冬といわれる年でも年末には積雪があり、スタッドレスタイヤに替えた。昨年末にも新品のものに交換をした。が、いまのところスタッドレスタイヤは全く役に立っていない。

 仕事場に向かう途中、びわ湖の向こうに比良連峰の山並みが見えるが、山上あたりに薄らと積雪が見える程度だ。これだとカンジキ(スノーシュー)は不要のような気がする。胸のあたりまでラッセルをして、氷壁と化した岩壁にとりついた山容は、いまは全く想像できない。

 ニュースでは各地のスキー場が雪不足だと報じている。兵庫県のあるスキー場では苦肉の策として、草スキーを検討しはじめたらしい。中部圏や東北あたりは滑れるようだが、積雪情報をみると一部滑走可能という表記も見られ、やはり例年よりも積雪量はかなり少ない。
 先日、あるスポーツ量販店に立ち寄った。スキー、スノボのコーナーはあったが、以前とは様相が違っていた。スノボやブーツの店頭在庫が少ない。ましてスキーやスキーブーツとなると、さらに少ないのだ。以前は初心者から上級者用までの、さまざまなブランドがたくさん並んでいた。秋が終わる頃から、品定めに何度も足を運んだものだ。その頃は、店のスタッフもお客の対応に忙しく動いていた。その頃といっても、ほんの5、6年前のことだ。
 ただでさえスキー人口が激減しているのに、この暖冬で深刻な雪不足では、さらに需要は落ち込んでいくのだろうか。知人のスキー場関係者も、さぞ気をもんでいるに違いない。いまは、降雪を祈るばかりだ。

 一方、いま冬物のバーゲンがいっせいに行われている。先日、あるショッピングモールに出かけたが、アパレルではどのショップも店頭にダウンウエアやコートなどが数多く並んでいた。暖冬で冬物が苦戦していると聞いた。この日、モールの外はコートがいらないぐらいの気温だった。

 冬物が売れないと、景気に陰りが出てくるし、観光にも大きな影響がある。各地の雪まつりは開催が懸念されているところもあるし、雪を求めてのインバウンドにも連鎖すると言われている。また、雪不足は春以降の農作物に、深刻な影響が出てくるのではないか。水不足が心配だ。

 日常生活には暖冬はありがたいが、冬はそれなりに寒く、夏はそれなりに暑い、というサイクルが生物には必要なのだと実感する、年のはじめである。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員