− 第619回 −  筆者 中村 達


『お正月は森を歩く』

 お正月の三が日は、あっと言う間に過ぎ去ってしまった感がある。若い時や現役で山に登っていた頃は、正月の前後はたいてい山に入っていた。スキーはテントか無人の山小屋に泊まって楽しんでいた。だから正月の気分を味わったことが少なく、下山して麓の町で締め飾りを見ると、うれしい気分になったことを憶えている。

 それはかなり昔のことで、いまは、里山を歩くことが多くなった。この正月はびわ湖近くの山を歩いてみようと山麓まで車で向かった。道は空いているだろうと走っていると、渋滞の車列に追いついた。何だろうと前方を見ると、かなり前の方まで車が続いていた。
どうやら、ショッピングモールに向かう車でかなりの混雑しているようだ。しばらく待っていたが動かないので、Uターンして引き返すことにした。

 仕方がないので目的の山は諦めて、近くの里山を散策することにした。私の住んでいる地域は、少し足を延ばせば森や里山、森林公園、それに古刹などが数多くある。

 結局、近くの森林公園を歩くことにした。だれもいない静かな森の中を歩いた。木々はすっかり葉を落として、冬枯れの様相を見せていた。それはそれで風情があっていいものだ。ブラブラ歩いていると、ジョギングをしている人とすれ違った。さらに30分ほどすると、サイクリングの男性と出会った。軽く会釈をした。
 3時間ほど歩いている間、出会ったのはこの2人だけだった。それに目立ったのはイノシシが土を掘り返した跡だった。車の渋滞とは裏腹な、なんとも静かなお正月の森の散策だった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員