− 第617回 −  筆者 中村 達


『リュックサックの進化』

 師走に入って東京に出かけた。山手線四ツ谷駅前で信号待ちをしている時に、ふと気がついた。リュックサックのことだ。信号待ちをしている人たちの多くが肩にかけている。いったい何人の人が、リュックサックを担いでいるのかと、ザーッと数えてみた。10人ほどだった。信号待ちをしている人たちは、全部で15名ぐらいだったので、7割近い人がリュックサックを肩にかけていたことになる。

 これほどリュックサックが一般化、つまり日常化してきたのはいつごろからだろう。いわゆるディパックが日本に紹介されたのは。1970年代だったように思う。大学生がディパックを通学に使っていた。それがアメリカントラディショナルとか、ヘビーデユーとして、一躍注目を集めたように記憶している。
 それまでは登山用の装備類は、ヨーロッパに源流があったようだ。リュックサックやサブザックといわれるものは、日常生活ではやや使いにくかった。あくまで登山専用だった。それがディパックの登場で、通学でも使えるようになった。しかし、まだ通勤には時期尚早であったと思う。

 1990年代になって海外から多くのアウトドア用の衣類や道具が輸入された。ディパックや小型のリュックサックも国産のものも含めて、様々なブランドが専門店の店頭に並んだ。
 そして、2000年ごろからは、それらは少しずつ進化して、山やアウトドアだけでなく日常生活や通勤でも使用できるようなものになった。  いまやリュックサックは、アウトドア専門店や登山用具店の専売ではなく、スーパーでも駅前の雑貨店や、ファストファッションの店頭でも手に入れることができる。

 リュックサックは山から降りてきて、街のモノになった感がある。パソコンやタブレットが収納できるポケットがあり、A4の書類が入る。ペットボトルの取り出しも簡単だ。そして何よりもハンズフリーなのがいい。両手が空くのでスマホの操作もできる。また、デザインもファッション性が高くなり、オシャレなものも多くなった。ただ、アウトドアでの酷使や、風雨に耐えられるかは疑問のものもあるが・・・。
 
 とはいえ、そんなリュックサックの進化だが、私のような古い山屋は少しでも山の匂を残したいと、あえて登山用を選択している。われながら少し滑稽ではあるが・・・。
 東京で混みあっている電車の中で、他の乗客の邪魔にならないようにと、リュックサックを前で抱えている人たちが多いのに感心した。最近は混みあう電車通勤をしていないので、そんなマナーがあることを知らなかった。あわてて、すぐに肩から下ろした。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員