− 第612回 −  筆者 中村 達


『里山を歩く』

 10月のはじめ、安藤百福センター周辺の浅間・八ヶ岳パノラマトレイルを少し歩いた。このトレイルを歩くのは久しぶりだったし、ソールを貼り替えた登山靴の具合を確かめたかったこともある。
「いつでもトレイルを歩けるのはいいですね!」などとよく言われるが、雑用に追われてそのような時間は少ないのが実際だ。

 小諸市は千曲川をはさんで、おおざっぱに言うと、北側の浅間山と南側の御牧ケ原台地に分けられる。安藤百福センターは南側に位置していて、標高は700~800mほどの丘陵地にある。その丘陵地や千曲川沿いにトレイルが設定されている。トレイルのある森の植生は豊かで、ナラ、ケヤキなどのほかカラマツの林もあり、野草も多く、四季折々の風情が楽しめる。かつて、文豪の島崎藤村もいっとき小諸に住み、周辺をよく歩いたのではと思う。この日は、布引観音に至るトレイルを歩いた。

 紅葉にはまだ少し早いが、森を抜けて布引観音のコースを歩くことにした。道標も安藤百福センターのスタッフが設置していて、まず間違うことはない。方向はわかっているので、その勘を頼りに、足元の靴の具合を確かめながら歩をすすめた。靴を気にして歩いたので、気がつくと登りばかりで少し汗が出てきた。方向は間違っていないはずだが、本来は少し下り、いったん車道に出で、布引観音への参拝路に続くはずだった。
 「あっれ!」と思ったが、引き返すのも面倒くさいので、そのまま登り続けると、里山の台地に出て林道と合流した。明らかに予定していたルートとは違った。というより、布引観音からぐるっと回って、いま、登ってきた道を下るはずだった。我ながら、ええ加減な歩き方をしたと、いささか反省である。甘く見て、地図も持ってこなかった。

 この日、布引観音はアジアからの観光客だけで、参拝者も少なく静かだった。ひと月もすれば、すっかり木々は紅葉して参詣路も落葉で覆われることだろう。

 その1週間後、台風19号が甲信地方にも大きな被害をもたらした。このコラムを書いているいま現在、布引観音へ続く県道は土砂崩れで通行止めだそうだ。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員