− 第600回 −  筆者 中村 達


『みちのく潮風トレイルが開通』

 6月9日、全長およそ1000㎞の「みちのく潮風トレイル」の開通記念式典とシンポジウムが、宮城県名取市で行われた。福島県の相馬から青森県の八戸まで、ほぼ海岸線に沿って設定された国内最長のロングトレイルで、歩く旅の道である。東日本大震災の被災地復興への願いも込めたトレイルで、環境省を主体とした国の事業として行われた。長大なだけに、多くの障害やご苦労もあったと想像する。敬意を表したいと思う。

 7年前、この事業が行われるのに際して視察に訪れたことがある。津波で被災した地域の実情を目の当たりにして、大きなショックをうけて言葉がなかった。そんな中で、倒壊した家屋の再建作業をしているお年寄りが、私たちの姿を見て、手を振って会釈してくれた。その光景は、いまも目に焼き付いて、けっして忘れることが出来ない。

 さて、1000㎞のトレイルが開通したものの、まだまだ多くの課題があるように思う。ハイカーや観光客がトレイルを歩いて、被災された人たちと接して、元気を届けるのもこの「みちのく潮風トレイル」の大きな目的の一つとされている。
 私たちは、ロングトレイルやトレイルといったワードを、何の疑問もなく使っている。しかし、そこに住む人たちにとっては、日常的に利用している「ふだんの道」を、トレイルと呼ばれても、違和感を覚えることもあると思う。
 森の中や海岸部だけでなく、多くの人たちが日常生活を営む、いわば生活圏にもトレイルが設定されている。だから「みちのく潮風トレイル」が、そこに住む人々の生活の中に溶け込み、理解してもらうことが何よりも重要だ。そして、歩く人たちもその意味をしっかり認識しておく必要があると思う。そのための啓発活動も大切な作業になるだろう

 「みちのく潮風トレイル」が広く世の中に浸透して、歩く旅のステージとして、さらにアウトドアアクティビティの場として認識されるまでには、相応の歳月が必要だ。国内外ロングトレイルやトレイルをみても、最低でも数十年はかかると思う。巡礼街道や古道などは1000年以上というのも珍しくはない。次の世代、その次の世代、さらに未来に続くロングトレイルであってほしいと願う。

 記念事業として行われたシンポジウムで、突然、コーディネーターから意見を言ってくださいと指名された。「造るのは簡単だが、維持するのは非常にむずかしい」という趣旨のお話をさせていただいた。いきなりだったので、何を言ったのか、あとはシドロモドロだった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員