− 第597回 −  筆者 中村 達


『ヘッドランプのこと』

 この国は自然災害が多い。台風、地震、豪雨など避けることが難しい災害に見舞われがちで、そのたびに対策が指摘される。ふだんからの心構えが大事だが、喉元過ぎれば何とやらで、ついつい忘れがちだ。
 避難時には必要なものは最小限にして、身軽に動ける方がいいと言われている。東日本大震災の時、あわてて避難時に必要なものを買い求めたことがあった。ヘッドランプもそのひとつだった。平常時には簡単に手に入るが、大きな災害が発生するとすぐに品薄になることを経験した。乾電池やペットボトルの水などは、被災地に優先的に送られたので当然だろう。

 そのとき少し気になって、私の山道具をチェックしてみた。登山用具やアウトドアで使用する調理器具などは、高品質なものが多く、当然災害時には有用だ。ヘッドランプもその一つだ。ところが取り出してみると、私のものは昔ながらの電球だった。使えなくはないが、バンドのゴムも伸びてしまっているので、最新のLEDのものに買い替えることにした。早速、アウトドアショップや登山用具店に出かけたが、すべて売り切れだった。ホームセンターにもなかった。あきらめかけたが、最後に訪れた釣り具店には、まだ在庫があって、ようやく手にすることが出来た。
 ただ、ほしかったアウトドアブランドはなかったので、ネットで検索してみた。しかし、どのショップもSold Outだったが、しつこく探し続けると、ようやく在庫があるところにたどり着いた。長野県の北部の村にあるショップだった。
いま思い起こすと、なんだか恥ずかしいような経験だった。

 ところで私の高校生の頃、ヘッドランプはまだまだ一般的には知られていなかった。さほど需要もなかったのだと思う。ただ、登山には便利で、ある登山用具メーカーが販売していた。ランプの形状は記憶にないが、単一電池を2個入れるケースは、黒で腰につけられるようにカーブしていた。
 山で使っていると、接触が悪いのか勝手に点滅した。中を開けて調べてみると、スイッチの接点と電池ケースにも問題があるように思った。そこで、メーカーに問題点を指摘した手紙とともに、不具合と思われる箇所の図を描いて送った。するとすぐに、お礼の手紙とともに代替品や山で使うスコップ、コッヘルなどが送られてきた。これらは山岳部の備品になった。それ以降、そのメーカーのファンになって、装備品はそのメーカーのものを優先的に選んだ。ヘッドランプを見ると、当時のことを思い出す。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員