− 第594回 −  筆者 中村 達


『平成時代のアウトドアズ雑感』

 平成元年(1989年)の頃はバブルの最盛期で、アウトドアズはさほど注目されなかったように思う。いわゆるリゾート法で日本中が大騒ぎになった。あるリゾートのセミナーで、講演のあと質問した。「リゾートに出かける人たちのライフスタイルって?」「先生は、ご自身が長期間休暇をとったことはありますか?」
 講師は絶句して答えが出来なかったように思う。意地の悪い質問だったかもしれない。そんな時代だった。

オートキャンプがブームに

 その後、バブル経済が崩壊(平成3年頃)して「安・近・短」といわれる社会現象が発生した。レジャーは安くて、近くて、短い、がキーワードになり、オートキャンプなるものがブームになった。フロントガードを装着した4WD 車の旋風が巻き起こり、街中をクロカン型RV車が席巻した。
 ホームセンターやディスカウントショップなどで購入したキャンプ道具を満載して、RV車でキャンプ場に向かったファミリーも多かった。ハンドルの向こうに荒野が見えたのかも知れない。私もその一人だった。
 各地でオートキャンプ場がつくられ、その数は1500とも2000ともいわれた。リゾート用の土地が、オートキャンプ場に転用された例も多かったようだ。ちなみにキャンプ人口は、平成8年頃で1600万人と推計され、その主役は団塊の世代のファミリー層だった。
 また、ブラッド・ピット主演の映画「リバーランズ・スルー・イット」が公開され、フライフィッシングがブームとなった。フライフィッシングを通じて家族の絆を確かめるというストーリーだ。フライとともにファッションも注目された。優雅なキャスティングフォームが米国でも若い女性のから支持された、と米国のアウトドア誌編集長が語っていた。ただ、フライはそれなりに難しいということもあって、国内でのブームは過ぎ去ってしまった。

中高年者の登山・山登り

 一方、平成元年頃から中高年の山登りが、静かなブームとなった。さらに、日本百名山がTVなどで紹介され、中高年登山が大きなムーブメントになった。有名山岳にはおおぜいの中高年登山者が押し寄せ、山岳事故も多発した。安全登山と事故防止対策が社会的な課題となった。また、山岳ガイドへのニーズも高くなって、職業としても人気がでてきた。
 平成21年頃には山ガールのブームが発生した。自然の中で癒しとかリフレッシュを求める若い女性たちが、山を登り、歩きだした。「山スカート」など新しいスタイルも登場した。TVなどでも数多く報道され一躍注目を集めた。自立した女性たちが山を歩くファッションは、これまでの中高年登山者とは一線を画したといわれた。山ガールに触発されて「山ボーイ」も登場した。その後ブームは沈静化するが、若い女性の山登り、山歩きは定着したのではないかと思う。

子どもたちの自然離れ

 平成10年~20年頃は、若者や子どもたちの自然離れが深刻だと社会問題にもなった。自然体験活動の推進を国も積極的に進めた。また、自然学校も各地にできたが、職業として確立するには課題も多いのが現実だ。社会として必要ではあるが、ニーズを掘り起こすにはまだ時間がかかる。
 そんな状況の中、高校山岳部への入部希望者が急上昇という。理由はいろいろあるが、結局は自然志向が基本的な欲求としてあり、経済環境など社会的な要素が整えば、必然的に「山歩きムーブメント」が発生するのではないだろうか。この国の地勢からアウトドアズは、必然的に山岳地帯となり、対象となるフィールドは山にならざるを得ないことが多い。
 しかし、高校山岳部への入部希望者が増えても、指導できる教員などの人材が不足していて、大きな問題として提起されている。

ロングトレイルが「2013年ヒット予測」でトップに

 平成23年末に日経トレンディの「2013年のヒット予測」で、ロングトレイルが1位になり注目された。経済誌などでアウトドアアクティビティが取り上げられるのはさほど珍しくはないが、当時、ロングトレイルは一般的にはまだ馴染みが少なく、フューチャーされたのには驚いた。が、その後、ロングトレイル整備は国内だけではなく、世界的な動きになっている。
アウトドアライフスタイルへ

 平成の終わりになって、キャンピング人気が上昇している。以前のオートキャンプブームの頃とは少し異なって、快適さや清潔さ、あるいは豪華さのようなものを求めるようになってきたようだ。グランピングなどがその例だろう。
 そしてアウトドアファッションが好調である。街でも高機能素材が使われたアウトドアウェアを、日常的に着用している人たちが見られる。こんな市場を、業界ではアウトドアライフスタイルというらしい。
 日常的にアウトドアモノを利用することからもアウトドアライフがはじまる、というのが私の持論である。例えファッションであってもそれでいい。
 デイパック、ダウンウェア、アウトドアブーツ、マウンテンパーカー、発熱素材、吸汗素材などなど、山から下りてきて、街で日常生活に取り入れられてきたのが平成の時代だと思う。
 かつて、ある経済官僚が「アウトドアズを普及するには、日本人のライフスタイルを変えないと・・・」。いまもこの言葉が耳に残っている。
 令和の時代には、アウトドアズが私たちのライフスタイルのひとつになることを願っている。
(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員