− 第593回 −  筆者 中村 達


『少ない積雪と遅い春』

 出張で北陸線を金沢で新幹線に乗り換えて長野県に入った。滋賀県から富山県までの沿線は桜がほぼ満開だった。石川県の小松あたりからは、桜の背後に雪をかぶった白山が聳えていた。金沢から北陸新幹線に乗り換え、高岡を過ぎるころから立山連峰が屏風のようにそそり立って見える。北アルプスの絶景が車窓に広がって、飽きることがない。
 桜が咲くころは、安藤百福センターへは北陸まわりの方が残雪の山々がよく見えるので、多少乗り継ぎが不便でも時折そうしている。

 翌朝、安藤百福センターに訪ねてきた近隣の関係者が、今年は山に雪が少なくて、と顔を曇らせた。雪が少ないと地下に浸透する水が減って、夏の水不足が心配だという。「スキー場は人工雪で何とかなるが、地下に水が溜まらないと困ったことになる」と言葉をついだ。そういえば、北陸線の車窓から見える雪景色は、例年と比べて明らかに残雪が少ないように思った。浅間山もとてもこの時期とは思えない山容だ。
 大雪でも困るが、雪不足でも何かにつけ不都合がおこる。地球温暖化といえばすべてが済むような気になるが、果たしてそうなのか私には判然としない。そんなことを考えながら、北陸新幹線の佐久平を経って上越妙高に降り立った。専門学校の入学式が明日行われるので、前日入りしたのだ。
 ここでも明らかに雪は少なく、例年より温かいように感じた。出迎えてくれた関係者が、雪が少なくてちょっと異常です、と話しを続けた。例年なら田植えの準備は連休明けからだそうだが、今年はすでに始めているところもあるという。この分なら当地のゴルフ場も、GWには営業できるかもしれない。

 夜、ホテルで夕食を済ませて部屋に戻り窓のカーテンを開けた。外は吹雪だった。まるで真冬のように雪が舞っていた。
朝、眼前に広がる妙高山や戸隠連山と山麓は、新雪におおわれていた。例年より早いと思われていた春が、真冬に逆戻りしたかのようだった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員