− 第591回 −  筆者 中村 達


『高校山岳部員が増えた』

 高校山岳部への入部希望者が増えているそうだ。全国高体連の調査によると、この10年間で登山は男子で65%、女子が97%も山岳部員が増えている。その背景にはアウトドアブームがあるらしい。しかし、登山を教えられる教師や指導者の絶対数が不足していると言われている。

 山岳部といっても活動の内容やレベルは様々だ。アウトドアブームと言ってもどんなアウトドアズかが問題だと思う。このあたりはしっかり検証する必要がある。
 古い話だが私も学生時代は山漬けだった。高校時代も山岳部に所属していた。私の高校ではシゴキというのはなかったが、当時は大学山岳部やワンゲル部でシゴキ事件というのがあって世情をにぎわせた。
 山岳部はキツイ、キタナイ、キケンの3Kと言われていた。ただ、現代のように遊びの選択肢はさほど多くなく、山登りはレジャーの代表のひとつだった。夏の登山列車と言われた長野や富山行きの列車は超満員で、アルプスの登山路は登山者で長蛇の列が出来ていた。国全体が登山ブームで、当然、山岳部やワンゲル部にも多くの部員が集まった。

 私の高校山岳部では登山経験のある教師が顧問となって、OBがサポートするような体制がとられていた。また、社会人山岳会が1,500とも2,000とも数えられるほどあった。当時はアウトドアショップというのは非常に少なく、大半が登山用具専門店だった。その専門店は山岳会の事務所になっている場合が多く、店主やスタッフは登山経験が豊かだったと思う。
 専門店では単に装備類を買うだけでなく、使い方はもちろん目的の山岳のアドバイスや危険回避の方法なども教えるような指導的役割を果たしていた。私も暇さえあれば登山用具店に足を運んで、さまざまな情報を入手したり教えてもらったりしていた。
 言い換えるなら、学校だけでなく社会全体で登山に対する指導システムが働いていたように思う。

 ひるがえって今を考えると、学校では教師の登山経験者が非常に少ないようだ。また、遭難事故もあったことだし「山登りは危険!」という雰囲気もあり敬遠しがちに思う。
 昔のようにとは思わないが、学校だけでなく社会全体で「登山文化」を支えていく仕組みが必要のように思う。インバウンドで訪日外国人の自然指向が高まって、山岳地域に足を向ける人たちが増加するだろう。その影響を受けて、国内でも登山ブームがさらに高まる可能性があり、指導者の育成と安全対策は急がなければならない課題である。
※画像は本文とは無関係です。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員