− 第590回 −  筆者 中村 達


『変わるアウトドアズ』

 いま、登山用品や用具の売れ行きはあまり良くない。わかりやすく言えば、ハードなものは人気がない。その主な理由は、一通り行き渡ったことと、登山ブームの主役であった中高年が、高齢化とともに逓減しつつあるからだろう。
 が、一方でキャンプ用品が人気だ。キャンプサイトで家族がテントを張って、バーベキューを楽しんで、スリーピングバックで眠る。ファミリーキャンプの定番である。私も子どもたちが小さい頃は、キャンプ用具を車に満載してキャンプ場へ出かけたものだ。

 当時は、オートキャンプが人気でRV車(いまはRVではなくSUVと言うらしい)に乗って、アウトドアライフ風を楽しむのが一大ブームだった。また、キャンプ用品は安かろう、悪かろうのものもあったが、ほとんどがディスカウントショップやホームセンターで手に入った。ウェア類は普段着ているものから、汚れてもいいもの適当に選んで着ていたような気がする。少なくとも私の場合、ことオートキャンプでは防水、透湿なんていう素材には、さほどこだわりはなかった。

 いま、テントは居住性が良く強度も高まり、軽量化された優れものが多くなった。炊事用具、バーベキュー用品、スリーピングバックなども、かつてなら目の玉が飛び出しそうな価格だったが、それなりにコナレタ値段になったようだ。ランプやバーナーなどもハイテク化するなど、使いやすく安全面にもより配慮されてきている。
 ウェア類はヒマラヤの高峰でも通用しそうな素材を使ったアウトドアブランドが、キャンプでも人気だ。欧米のアウトドアブランドモノ、中でもカナダや北欧のものがトレンドらしく、それを町でもキャンプ場でもオシャレに着こなしている。これをアウトドア業界ではライフスタイル市場と言うらしい。

 また、キャンプを高級リゾート風に設らえたものが、グランピング(glamping)だそうで、高級ホテルのような快適なキャンプ生活が楽しめるというので人気が出ている。キャンピングとグラマラスを組み合わせた造語だそうだ。

 こんな風が今どきのアウトドアズで、何であれ、自然と親しむ機会があるのは良いことだと思う。ただ、キャンプは手段であって目的ではない、という私の古い経験値とはずいぶん違う。それも時代なのだろう。
 20年近く前、米国のアウトドアメーカーの社長が日本の市場を見て「日本のアウトドアズはバーベキューだ」と言った一言が、いまも耳に残っている。
※画像はイメージです。本文とは無関係です。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員