− 第582回 −  筆者 中村 達


『発熱性のアンダーウェア』

 寒くなってくると、発熱性のアンダーウェアがよく売れているようだ。〇〇テックは、いまや発熱アンダーウェアの代名詞になった、と言っていいだろう。だれでも一枚や二枚は持っている感がある。私もいつの間にか、かなりの枚数になってしまった。
 また、同じような製品がたくさんあり、いろいろ試してみたが、少なくとも街中では個人的にはさほど違いは感じなかった。

 40年ほど前のことだが、カラコルム登山に出かける際、ある大手繊維メーカーから高所で試してほしいと、「保温力」が高いとされるアンダーウェアの提供を受けた。当時も保温素材の開発はずいぶん行われていたが、私は冬山登山の際は、まだ純毛のアンダーを着ていたと思う。
 その提供を受けたアンダーウェアは、高所の氷の上でも、吹雪の中でも抜群の保温力を発揮し、登攀活動を陰で支えてくれた。ただ、静電気の発生がもの凄く、テントの中でピッケルなどの金属に触れると、青白い電光が花火のようにスパークした。帰国後、その点を指摘すると、改善しますということで、少しは製品の改良に役立ったかもしれない。

 「発熱素材」が市場に出てきたのは、私の知る限りでは20年ほど前ではないかと思う。ある大手スポーツメーカーに発熱素材が持ち込まれた。日本の経済も落ち込んでいた頃で、どのセクションも関心は示さなかったそうだ。
 そんな中で、アウトドア分野だけは面白いと、触手を動かした。当時、その繊維は染めにくく、黒とか、ややグレーに近いピンクなどに限られていた。しかし、発熱の威力は驚くほどで、特に汗をかくとすぐに温かくなった。「発熱」に消費者は敏感で、一躍アウトドア分野ではトップブランドになった。素材の開発も進み、いまではさまざまな製品に用いられている。

 この発熱素材は劣化しにくいと言われている。開発段階のサンプルを、いまなお山で着ているが、温かさは変わらない気がする。
 ある年の暮れ、雪山を歩いた。同行者たちがパーカーを着ているのに、私はそのアンダーとフリースだけで歩いていた。「そんな薄着で大丈夫」と言われたが、行動中は不思議と寒くはなかった。なぜだろかと訝かし気だったが、発熱素材のアンダーを着ていることに気がついた。20年近くの製品だが、まだ捨てられずにいる。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員