− 第569回 −  筆者 中村 達


『コクショはドクショで乗りきる』

 酷暑で外へ出るだけで、猛烈な熱波に包まれた。こんなにひどい熱の日常は、かなり昔に経験したパキスタンのラワルピンディー以来だと思う。ハンマーで撃たれたような、ガーンという感じの熱だ。
 こんな日はできるだけ外出は控えて、部屋でまだ読んでいない本や写真集、資料などを引っ張り出して目を通すのに限る。

 米国の知人からプレゼントされた『SIERA CLUB』の「100YEARS OF PROTECTING NATURE(By TOM TURNER)」を本棚から引き出した。自然環境保護運動の歴史そのもので、絵画と写真を20年ぶりに見入った。 分厚い本で、丹念にページをめくっていると、時間が経つのを忘れてしまった。

 山岳写真家白籏史朗さんの『THE KARAKORUM』は、10数年振りにブックケースから取り出した。片手で持つには重い写真集で圧巻だ。ページをめくるにつれ、カラコルム山脈の気高い神々の座に圧倒されてしまった。
 ビアフォ氷河からの7000m級の峰々のパノラマは、40年以上もの歳月を経ても、当時の記憶のままだった。かつて、その山域に登山にでかけ、延べにして5カ月近く滞在したことがあった。空の青、岩壁の褐色、そして氷河と氷塊の白。この3色の記憶しかない。

 キャラバンルート(街道)を離れて、ビアフォ氷河末端のガレ場から氷河上に攀じ登ると、氷河の左右には無名峰の岩峰が列をなしていた。さらにその上部には、未踏の7000m級の岩塔が天に突き抜けていた。
 写真集に見入ると、一瞬、タイムスリップしたかのように、当時のワクワクとした感動が蘇ってきた。夢にまで見た未踏の山々と、山並みの向こうに果てしなく続くように思えた巨大な氷河。この偉大な自然は神の創造物だと思った。コンウェイ(William Martin Conway 英国の登山家・探検家)の『カラコルムの夜明け』そのものの風景だった。そんな記憶が、写真集を眺めているだけで蘇ってきた。

 最近の本も積読状態がたくさんある。ついつい書評を読んで、ネットで購入して、そのまま忘れてしまっているのが多い。恥ずかしながら、そんな本が何十冊あるのかわからない。この夏は「コクショ」を「ドクショ」で乗りきれればと思う。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員