− 第568回 −  筆者 中村 達


『日本のアウトドアズ』

 昨年度の日本のアウトドアマーケットは、出荷ベースでおよそ2,000億円と推計されている。前年対比で5%程度増えた。小売市場では約4,000億円というところか。(※)
 この額はゴルフ、スポーツシューズに次ぐ市場規模だ。わかりやすく言えば、野球、テニス、サッカーなどの競技スポーツよりも大きいことになる。
 ただ、この数値はスポーツとして分類されるカテゴリーからの推計値なので、例えばアパレルや、ファストファッションのアウトドアカジュアルは含まれていない。
 20年ほど前は、アウトドアズはスポーツ・レジャー分野では、決して大きな市場ではなく、下位にランクされていた。
が、バブル経済が崩壊して「安・近・短」が、レジャーのキーワードになって、RV車で出かけるオートキャンプが一躍ブームとなった。ホームセンターやスーパーなどでもアウトドアコーナーが設けられ、お手軽なキャンプ用品が店頭に堆く積まれていた。
 それを見た米国のアウトドアメーカーの社長が、日本は「バーベキューマーケットだ」と笑った。

 あれから国内のアウトドアズは随分と様変わりした。いっとき日本百名山ブームで、中高年登山者たちなどで有名山岳は賑わい、そのあと山ガールがメディアを席巻した。その間、山の用具や道具、それに登山用のウェアが大変よく売れた。山スカートが登場して、もてはやされた。
 しかし、高齢化が進むにつれ、高い山や難しい山岳は敬遠されがちとなって、同時に山ガールブームも頭打ちとなった感がある。

 市場から見るとアウトドア分野の中で『登山』のカテゴリーは、時代の趨勢や雪山で多発した遭難事故の影響もあって、逓減気味と考えられる。登山の定義は別として・・・。
 一方で、若者たちの間で野外フェス、キャンプなどが人気で、その会場やグラウンズに、アウトドアウェアを着て参加するのがトレンドとなっている。キャンプもファミリー層や若者たちの間で静かなブームだ。これらが市場を牽引し、上述の伸びにつながっているといわれている。

 また、自然や環境が時代のキーワードであり、ライフスタイルに変化をもたらしている。その具現化やファッションとして、アウトドアウェアが特に若者たちの間で人気だ。セレクトショップには、高品質素材のアウトドアウェアがラインナップされ、人気のブランドは飛ぶように売れている。が、その店頭にはそのウェアに対応するようなマウンテンブーツはないし、クライミング用の登攀用具やパックもない。「耐水圧は?」なんていう、私の意地悪な問いかけに、答えられるスタッフは少なかった。でもよく売れている。
 これをアウトドア業界ではライフスタイル市場と呼んでいるらしい。ライフスタイル市場というものがあるとすれば、それはアウトドアズとアパレルとの境界にあったバリアが、低くなってボーダーレス状態になりつつあるのかも知れない。消費者とすれば、品質さえ間違いなければ、選択肢が増えて歓迎すべきことだ。

 Outdoorというスタイルが、専門誌で紹介されたのが1976年のことだった。
 このような動きは、ようやくここにきてアウトドアズが、ライフスタイルの一つとして認識されつつある証左なのだろう。

(※)参考資料「スポーツ産業白書」矢野経済研究所

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員