− 第565回 −  筆者 中村 達


『過去最悪の山岳遭難件数』

 警察庁の発表によると、昨年の山岳遭難者数は過去最多だそうだ。中でも死者・行方不明は中高年が最も多く、全体の90%を占めている。ちなみに昨年の遭難事故発生件数は2,583件(昨年対比88件増)3,111人にのぼっている。山岳遭難の防止対策は国、都道府県や山岳団体レベルでも積極的に行われてはいるが、この数字は1961年に統計をとりはじめて以来、最悪の数字となった。

 遭難事故の原因は経験不足、無理な計画、道迷い、食料・装備の不足などなど、様々な要因がある。中高年が多いのは、経験不足に加えて体力の衰え、あるいは登山中の持病の悪化などとも指摘されている。
 それともう一つ、私も含めた中高年者の若い頃は、パソコンもなかったし、ゲームといえばトランプ程度で、レジャーは海か山だった。学校では集団登山や林間学校などが盛んに行われた。また、空前の登山ブームで夏ともなれば、信州や富山方面行の夜行列車は、大きなキスリングを担いだ若者たちですし詰め状態だった。
 だからこの世代の人たちは、山の経験が程度の差こそあれ、それなりにあったように思う。そして、中高年になって、あるいはリタイアしたあとにできる健康体力づくりとレクレーションには「歩く」ことが最適で、昔とった杵柄じゃないが、ステージは山となる場合が多くなった。しかし、現実には中高年になると加齢とともに体力は確実に落ちてくる。

 私自身、山で昔はこんな筈じゃなかった、という経験はたびたびある。体力が落ち疲労してくると、判断力や思考能力も減退してくる。そんなことも遭難の原因としてあげられるのではないだろうか。
 自分の登山経験度、体力、健康状態、登ろうとしている山岳の情報を的確に知っておくことが最低限必要だろう。また、万一の事態に備えて、山岳遭難保険などに入っておくことも一考だ。
 そして、登山は何よりも自己責任であることを自覚しておきたい。
※画像はイメージです

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員