− 第563回 −  筆者 中村 達


『佐渡島ロングトレイル』

 佐渡島でロングトレイルシンポジウムがあり出かけてきた。佐渡島を訪ねるのは3回目だが、関西からは少々遠い。が、大型のフェリーで渡るから旅情があって楽しい。飛行機という手もあるようだが、フェリーの方が圧倒的に多いと聞いた。

 佐渡島の印象だが、歩いてみると島というには大きく広いのがよくわかる。最高峰は金峰山で標高は1,172m。島なので海抜0mからいきなり1,000m以上の標高差となるので、本州の山々と比べると見上げるような山容だ。5月のこの時期はまだ残雪があって、初めて訪れた人は驚きを隠さない。
 また、佐渡はトキの繁殖で知られているが、最近は保護活動も順調で個体数も増えているそうだ。宿で寝転がっていると、ギャーギャーという声が聞こえたので窓の外を見ると、トキが優雅に羽を広げて空を舞っていた。

 そんな佐渡島にロングトレイルが計画されている。佐渡島のほぼ南端の小木(おぎ)から北端の二ツ亀まで、海辺から大佐渡山脈を縦断するおよそ130kmのトレイルだ。
 島のトレイルはイメージだけだとわかりにくいが、佐渡島の山々は本州には希少となった植生が見られる。春の山は野草が数多く咲いている。今回は黄色い花をつけたカンゾウが、海辺で群落をなして咲き誇っていた。ちょうど最盛期で、観光の目玉の一つとなっている。
 もう開花の時期はすんだとあきらめていたシラネアオイやカタクリも、日陰で花を開いていた。佐渡島は猿やシカなどが生息せず、まだ生態系が守られているからだと聞いた。フェリーだと2時間はかかる日本海に隔てられているので、この自然環境が保全されているのだろう。
 自然環境を守りながらロングトレイルを整備して、多くのハイカーを呼び込むには様々な課題も解決しなければならない。自然保護活動、人材の育成、安全管理、アクセスの整備、ルート図の作成、道標整備、インフォメ―ションなどなど、数多くある。なかでも島の人々にロングトレイルとは何かを理解してもらうことが、まずは必要である。  過疎化と人口減がすすんでいるといわれる佐渡島で、歩く時代とともに、インバウンドに対応したロングトレイルが出来るか、関係者の英知を結集することが重要だと思った。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員