− 第562回 −  筆者 中村 達


『戸隠の水芭蕉』

 先日、久しぶりに戸隠高原に出かけてきた。春に戸隠を訪ねるのは初めてだった。標高1000mを越える戸隠神社奥社近くの植物園では、水芭蕉の群落が見られた。尾瀬のような大湿原ではないが、水芭蕉をゆっくり見たり観察するには、ちょうどいい広さかも知れない。見事な群落で、戸隠にこのような場所があるなんて、恥ずかしながら今になって知った。
 植物園入口近くのみどりが池周辺や、湿地帯には水芭蕉の群落があった。園内を散策すると、ようやく雪が解け木々の新芽が出そろったようだ。オオヤマザクラ、ニリンソウ、リュウキンカなどの高山植物や咲いていた。そして、何組かのアマチアカメラマンが、長玉のレンズをつけた三脚を立てていた。散策路の途中では、やはり500㎜の望遠レンズをつけた野鳥愛好家に出会った。バードウォッチャーの観察ポイントなのだろう。
 ところどころに「熊出没注意!」なんている立札があった。戸隠神社奥社のすぐ横で大勢の参拝があるのに、こんなところにも熊が出るのかと少しビックリした。いまや熊は、かなりの範囲で生息域を拡大しているように思える。

 戸隠神社の奥社方向へ歩いていくと、修学旅行だろうか高校生の集団に出会った。さすがに若いだけあって歩くのも早く、楽しそうに友人たちと話しながら歩を進めていた。

 宿は越水ヶ原のペンションにとった。ペンションは森の中で広い庭には、カタクリの大群落があった。夜、レストランで食事の後、壁にかかったピッケルを手にとった。ウッドシャフトで、使い込まれて薄くなった刻印で、シモンと彫られているようだった。かなり古いもので、もう手に入らない逸品のような気がした。懐かしくてしばらく見入った。
 久しぶりに山中でのんびり過ごすことができた、戸隠の旅だった。
 帰宅して本棚の間に放置してあった、山岳部時代に愛用していたシモンのピッケルを手に取った。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員