- 第553回 -  筆者 中村 達


『ガイドの資質の向上』

 知人の山岳ガイドは、ひと夏に富士山に10回はガイド登山をしていた。無雪期は富士山のほかに、北、南、中央のアルプスを案内している。もちろん他の有名山岳へのガイドも多い。冬は八ヶ岳など比較的登りやすい山々を案内し、近郊ではスノーシューの体験教室も行っている。そのため、年間のスケジュールはほぼ埋まっているという。また、遭難救助に駆り出されるときもよくあるらしい。
 それだけ山岳ガイドの需要は多いようだ。ガイド業を始めた頃は。旅行代理店の依頼によるツアー登山のガイドが大半だった。ガイド業に慣れてくると徐々に個人客が増えてくる。個人客はバリエーションルートや冬山など、個人では行けないような山へのガイド依頼が多い。
 それでは、第一線で活躍している山岳ガイドの収入はいくらだろうか。聞くところによれば、300~1000万円と幅が広いが、中心ゾーンは400万円程度だそうだ。ただし、個人の登山装備やガイドに必要な備品は、この中に含まれる場合がほとんどだ。スポンサーでもついてくれればいいのだが、簡単ではない。もっとも、兼業ガイドが多いのが特徴で、専業者は少ないといわれている。
 そう考えると、決して金銭的に恵まれた職業ではないと思う。しかし、自然の中で、好きな登山を職業と出来るのは、何ものにも代えがた喜びがある。

 自然を相手にしている仕事は多いが、客商売となるとかなり限定されると思う。しかし、地勢の70%が山岳地帯であることを考えると、観光立国を標榜するこの国では、山岳ガイドの需要は多くなるはずである。特に外国人観光客の自然指向は高く、日本の奥深い山地に向かうものと予想できる。

 時々日本の区分地図を広げて見入ることがある。私にとって、例えば東北の山岳地域は知らないところがほとんどで、地形図で見る東北の山々は大変魅力的だ。アウトドア好きの外国人にも同じように感じると察しがつく。が、ガイドなくして入山するのは簡単ではない。その山域に入れば、多様な植生、変化に富んだ地勢、伝わる森の文化と歴史など、興味津々の世界が広がってくるはずだ。そんな山岳地域を、外国語でも解説できる山岳ガイドの需要は高くなると思う。
 そういう意味でも、山岳ガイドの資質の更なる向上が求められるし、その資質こそが社会的地位の確立につながるのではないかと思う。
※画像はイメージです。
(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員