- 第552回 -  筆者 中村 達


『アウトドアズの資格』

 アウトドア分野の指導者資格は、かなりの数にのぼる。山岳、キャンプ場あるいは海・川などのフィールド別にも相当数がある。野外教育団体や普及団体、青少年育成団体などにもキャンプを中心とする指導者資格制度がある。これらの資格制度がいくつあるか数えたことはないが、相当数になるのは間違いない。
 数多いアウトドア分野の指導者資格の中で公的なもの、つまり国家資格というものはないに等しいように思う。また、資格がその職業に必要不可欠になっているものも非常に少ない。
 このような状態の中で、数少ない職能資格としてあげられるのは山岳ガイドだろう。正確には山岳ガイド、登山ガイド、自然ガイドなど、フィールド別やグレード別に制度が整えられている。しかし、この資格も国家資格ではない。フランスやスイスなどのように山岳観光が、国家的な施策となっている国々では、山岳ガイドは国家資格だ。そして、山岳ガイドは尊敬され、子どもたちのあこがれの職業の一つといえる。
 これには歴史的な経緯とともに、これらの国々の地勢が大きく影響しているように思う。つまりヨーロッパアルプスなどは山岳ガイドなくしては、登るのが非常に困難な山が多い。まして氷河からそそり立つ岩壁を登るのは、少しぐらいの経験ではとても無理だ。登山が好きだけでは登れない山が多く、山岳ガイドに案内を頼むのが常識となっているのだ。さらに、これらの国々では、登山を含む観光が主要産業の一つでもある。
 ところが日本では、無積雪期の山岳で通常のルートなら、天気に恵まれ、体力さえあれば自力で登れてしまう山がほとんどだ。だから、山岳ガイドなしでも登れてしまう。この「登れてしまう」という山岳の地勢が、山岳ガイドという専門職の需要を制限していると思う。

 それでも旅行代理店が行うツアー登山などでは、特に夏の最盛期などはガイド不足となっている。また、外国人観光客が激増する中で、自然、なかでも山岳地に向かう人たちも増えてくる。彼らに対するガイド需要も増えてくると考えられるが、外国語でガイドできる山岳ガイドは決定的に不足しているといわれている。
 また、単に登山の知識だけでなく、植物、動物などのほか、歴史や習俗的なことも説明を求められるのは容易に想像できる。
 このあたりの人材をいかに育成するか、2020年を目前にして突き付けられている直近の課題である。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員