- 第547回 -  筆者 中村 達


『ロングトレイルは、歩くライフスタイルへ』

 今年はロングトレイルがさらに活発になった。北海道から九州まで全国各地で整備しようとする動きが、一段と活性化してきている。例えば新潟県の佐渡島では、島内に走る山脈をトレースして、ロングトレイルの整備をするようだ。群馬県では長野県との県境の山岳地帯に、トレイルを設定しようとしている。
 京都府は「海の京都・天の橋立大江山トレイル」を整備する計画があるし、滋賀県の比良比叡トレイルや、四国などもロングトレイルを検討している。その数は私が知っているだけでも相当数にのぼる。
 これらのロングトレイルの整備目的は地域の活性化だ。トレイルを歩いてくれる人が増えれば、宿泊、食事、ガイドなどの雇用、交通機関の利用や、温泉があれば入浴者も増える。端的に言えば、そんな経済効果も期待できる。それに、東京オリンピック・パラリンピックを機に、外国人ハイカーの大幅増という狙いもある。
 時間はかかるだろうが、ロングトレイルは着実にこの国に根を下ろしていくだろうと確信している。もちろん日本には信仰の道や古道などがあり、それらの道は1000年以上の歴史が形成してきた。海外ではスペインの巡礼路のサンチャゴ・コンポ・ステーラーは、およそ800年。イギリスのフットパスは300年。米国のアパラチアントレイルは70年といわれている。そう思えば、いま整備が進む新しいトレイルが、日本のロングトレイルとして、歩く文化の礎として定着し、経済的効果を享受していくまでには、それなりの年月が必要とされるということだ。

 また、経済的な効果を期待するだけでなく、長期的な視点で、文化的な遺産、資産として地域に住む人々の誇りとなるような取り組みが必要だと思う。
 そして、何よりもロングトレイルとして発展していくためには、若者や子どもたちが歩いてくれることだ。なかでも自然体験学習の場として活用してほしい。それには、学校の先生や指導者の「山を歩く」「歩く山旅」体験が必要だろう。それにもまして、私たちのライフスタイルの一つとして「歩く」が広がり、文化として成熟していくことが重要だ。
 少し前のことだが、日本でいかにしてアウトドアライフを普及していけばいいか、という議論があった。結局はライフスタイルを変えないと、という結論になった。 「歩く」がアウトドアライフスタイルの一つとなってほしいと願っている。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員