- 第546回 -  筆者 中村 達


『山の本、冒険・探検の本・・・』

 読書離れが言われて久しい。図書の販売数は激減しているらしい。とはいえ、ショッピングセンターなどに入っている本屋さんの店頭には、かなりの点数の新刊本が並んでいる。それを見ると出版不況とは思えないのだが。
 かつては有名作家であれば、初版は5万とも7万部とも聞いたことがある。しかし、一部の人気作家の作品は例外として、いまはとてもそんな部数は刷らないという。

 確かに電車などで、本を読んでいる人は少なくなった。たいていはスマホを触っているようだ。私などは習性でどこに行くにしても、読む、読まないは別にして、一冊の本をバッグに入れておかないと落ち着かない。
 この習性は高校生の頃から始まったように思う。高校の山岳部の夏山合宿で、顧問から朗読をするので山の本を持ってくるようにいわれた。フレデリック・M・ベイリーの『ヒマラヤ謎の河』と、浦松佐美太郎の『たった一人の山』を図書館から借りて持参した。いま思えば、山岳図書はひとつのカテゴリーとして存在していたようだ。よくぞこのような本が図書館にあったものだ。

 北アルプスの山中に張った天幕の中で、毎夜、部員による朗読がおこなわれた。ヒマラヤ山中で大湾局する、高度差5,000mもの峡谷の探検記だ。『たった一人の山』の「山登りは芸である…」のフレーズは、いまもしっかり記憶の中にある。

 リュックサックに文庫本を一冊入れておくという習性は、海外に出かける時も同様だ。が、読めなかったことも多いが・・・。

最近読んだ本で感動したのは『極北の動物誌』(ウィリアム・ブルーイット著 新潮社刊)だろうか。北極圏に生息する動物たちの物語だ。この本は、絶版になったがイベントで出店していた古書店の店主が薦めてくれた。
探検、冒険、登山、極北、南極などという単語に身体が反応するのが不思議だ。

 暇があれば書店に足を運んで、この種の本を購入している。そんな図書が積読になりがちで、思い出しては読み始めるということが多い。かつては山の本を専門に扱っている書店もあったのだが「山の文学」なんていう言葉も忘れさられようとしている。年末年始こそはコタツに入って、まだ読んでいない本を、と思っているのだが・・・。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員