- 第539回 -  筆者 中村 達


『久しぶりの信越トレイル』

 久しぶりに信越トレイルを歩いた。まだ紅葉には少し早いが、関田山脈は秋の気配だった。飯山盆地の稲は金色の穂が垂れ、まさに日本の原風景が広がっていた。

 斑尾高原のトレイルを少し歩いた後、作家で日本を代表するバックパッカーであった、故加藤則芳さんのお墓にお参りをした。それは戸狩スキー場近くのお寺の墓地にあった。ブナの巨木の下に静かに眠っていた。加藤さんらしい墓地で、信越トレイルゆかりの人たちの手によって墓標が建てられた。般若心経を唱えて手を合わせることが出来た。

 信越トレイルの起点の一つとなっている森の家で宿泊して、翌日、インタープリターに案内されてトレイルを歩いた。この日は晴天に恵まれたが夏日のような暑さで汗が噴き出した。途中に加藤さんを記念した小さなケルンがあった。
 トレイルは稜線上に整備されていて、アップダウンを繰り返すルートとなっている。途中、上越と信州を結ぶ峠道がいくつも横切っていた。いまは歩く人もほとんどいないと聞いたが、かつてはこの関田山脈を越えて、人とモノの往来が頻繁に行われていたのだろう。
 時間の関係で、途中の峠からショートカットして下山したが、この道も昔から人々の生活には重要な役割を果たしていたようだ。谷筋に実に巧みにつくられていて、大変歩きやすかった。昔の人の知恵は凄いと思った。

 ところで、このトレイル歩きに外国製の新品トレッキングシューズを持ってきた。昨日の斑尾で初めて足を入れた。歩きやすい靴だと思ったが、トレイルの草付きの傾斜路で、スリップして尻餅をつくところだった。歩き方が悪いのだろうと、気にも留めなかった。
 スリップしたことなどすっかり忘れてこの日も歩いた。起伏のあるトレイルは、ところどころ湿地のようにぬかるんでいて滑りやすかった。案の定、下りになると何度もスリップした。おまけに足元に気をとられるあまり、雪の重みで斜めになったブナの幹に、したたか頭を打ち付けた。帽子を被っていたので衝撃が和らげられたが、まだ少し腫れている。

 休憩時間にこのトレッキングシューズのソールを見た。ソールはトレッキング向きではなく、まさにウォーキングシューズだった。そういえば、店員さんが「ウォーキング用です」と言っていた気がする。シューズのデザインだけ見て、トレッキング用と勝手な解釈をしてしまった。私の自信過剰が招いた失敗だった。
 下山の際スリップしないようなステップで歩き続けたためか、翌日の朝、全身が筋肉痛に見舞われた。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員