- 第538回 -  筆者 中村 達


『フィルムカメラを使う』

 ようやく過ごしやすい季節になった。こらからカメラの出番が多くなると思い、点検のために保管庫内のカメラやレンズなどを全て取り出した。いまは使っていないフィルム一眼レフが、4~5台。レンジファインダーのフィルムカメラも数台ある。レンズはマニュアルも含めて、かなりの数だ。300㎜とか400㎜の望遠レンズも長い間使っていない。心配になってヘリコイドを回してみたがスムーズに動いたが、この先使う可能性は低いだろう。すっかりデジタルカメラになったので、新たにボディーやレンズが増えて、保管庫は満杯状態になっている。

 なんとなく気になっていたのがブロー二フィルムを使う二眼レフと、645版のカメラ2台である。645版の一台は蛇腹カメラでレンズが沈胴する。長い間欲しかったカメラで、手に入れようと思ったときは、すでに廃番になっていた。ところが15年ほど前だろうか、静岡県のとある駅前のカメラ店で見つけた。店主に「これは新品ですか」と尋ねると「保証書が付いていますから」と返ってきた。新品とは言わずにそう答えた。箱も値札もそのまま残っているし、まあいいかと、値段交渉をしてみた。粘ったが仕入れ値が7万円といわれ、損をしてまで売ってもらうわけにはいかないし、その価格で購入した。これは得をしたと思い有頂天になった。
 自宅に帰って箱を開け、明るいところで見るとファインダーが曇っていて、その上ボディーもなんだかモッヤーとしている。これはオカシイと思って保証書を見ると、購入日は空白のままだった。静岡の購入した店まで行くわけにいかないので、メーカーに電話を入れた。対応に出た修理の担当者は、その保証書であれば無償で点検・修理ができると言ってくれた。
 10日ほどたって点検修理を終えたカメラが戻ってきた。すべて清掃し、蛇腹も光が漏れていたので交換しました、と書かれていた。これで新品になった。

 そんなことを思い出しながら、次の山歩きに持って行こうと考えた。ところが、近くのカメラ店では、ブローニーサイズのフィルムはすでに扱っていないので、取り寄せになるという。仕方なく、ネットで調べるとすぐに見つかった。が、知らない間に、ずい分値上がりして、その上、バラ売りはなく5本セットになっていた。発注すると、翌日に届いた。

 久しぶりに使う中版カメラなので、写りが楽しみだ。ただ、ダイレクトプリントをするわけではなく、基本はパソコンのモニターで見ることになる。であれば、フィルムをスキャンしてデジタル化しなければならないので、果たしてフィルムを使う意味があるのか・・・。
 しかし、距離を合わせて、露出とシャッタースピードを決めて、慎重にシャッターを押すという一連の過程が、なんとも言えない自己満足の世界をつくってくれる。
 デジカメだとたまに露出補正するぐらいで、あとはコンピュータ化されたカメラ任せだ。それでも面倒なときはオートブラケットで撮影して、あとで選べばいいなんて、なんともいい加減な写し方をしていると自分でも思う。そのせいかダメな画像も多いが、フィルムカメラでは一枚一枚慎重にシャッターをきるので、意外と失敗写真は少なかった。山での撮影は、特にそうだった。
 しっかり構図を決めてシャッターを押すという流れは、デジタルでも同じだろうが、いくらでも撮れるという安易さがある。フィルムは枚数に限度があり、コストも考えるので、それなりに慎重になる。
 そういう意味では、たまにはフィルムカメラを使ってみるというのは、写真の原点に立ち返ることなのかもしれない。若干、考え方が古いかもしれないが・・・。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員