− 第532回 −  筆者 中村 達


『見える風景が違う』

 仕事柄どうしても出張が多い。それも自宅からは遠隔地だ。信越、山陰、山陽、東北、北海道、それに今年は四国地方も加わった。訪れる地は自然豊かなところが多く、迎えてくださるみなさんは、とても暖かい。
 これらの地には何らかの仕事で向かうことがほとんどだ。どこどこへ行くと人に言うと、たいていは「良いですね」と返ってくる。が、仕事となると思考のモードが、楽しさを求めていないので、向かう道中や現地での風景に、「遊び」の要素が欠落することが多い。
 たぶん私がうまく転換できないのだろうが、出張で見る風景と遊びで目にする景色とは何度経験しても違うのだ。軽井沢で下車しても、上高地に立ち寄っても感想は「来たか」程度の無機質なものになりがちである。

 もっとも出張と遊びとでは、いくら私でも服装や持ち物は違う。出張では資料やパソコンなどは、最近でリュックサックに入れることが多いが、山用のものとは違ってパソコン用のパットなどが装着されている。雨対策も折り畳みかビニール傘。カメラはコンデジで、デジイチを持参することは少なくなった。こんな些細なことも遊びモードを消し去っているのかも知れない。
 出張のついでに、観光地や山岳地を訪ねても思考のモードが仕事なので、心から楽しんだり感動したりすることが少ない。
 登山だと例え何十回と登っている穂高岳でも、数えきれないぐらい登った剣岳でも、毎回あらたな感動があるし、登る楽しみが生まれてくる。自宅近くの里山でも同じだ。

 個人的なことだが、仕事で月に二度ほど信州に出かけている。京都から新幹線で東京を経由して北陸新幹線で長野県に入る。移動時間はdoor to doorで約6時間。東海道新幹線で寝ていて目が覚めても、どのあたりを走っているか見当がつく。晴れていれば富士山が見えるので、シャッターポイントも知っているつもりだ。北陸新幹線はトンネルが多いので、スマホが使いづらい区間も体が覚えている。
 これでは旅の楽しさ減退するように思う。未知なもの、人との出会い、発見などが非日常な旅の楽しみだろう。日常化をしてしまうと、慣れっこになって感動も薄れるし発見も少ない。
 つまるところ、日常と非日常をいかに切り替えられるかの問題に突き当たる。そして、どんな状況にあっても好奇心が持ち続けられるか、が問われているのかも知れない。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員