- 第529回 -  筆者 中村 達


『少なくなったフライフィッシング』

 近頃、フライフィッシャーを見ることが少なくなった。フライフィッシングは全国的にも減少傾向だそうだ。その理由は、ロッドを振るエリアが少なくなったこと、道具が高価であること、そしてフライフィッシングが難しいなどがあげられる。
 20年ほど前だがブラッド・ピット主演の映画『リバー ランズ スルーイット』がヒットして、フライフィッシングがブームになったことがある。米国ではキャスティングの優美な姿に魅了されて、フライフィッシングをはじめたという女性も多かった。釣具店に「映画と同じものを揃えてほしい」という客がたくさん来た、と何かで読んだ。私も仕事で出かけたニューヨークで、時間を見つけてはアウトドアショップを駆け回って、主人公が着ていたフィッシングベストと同じものを探したことがある。
 国内でもこの映画の影響で、フライフィッシングは大ブームになった。キャスティングの講習会は、どこも盛況だったのを覚えている。

 が、すっかりブームは過去のものとなった。フライ用品を扱っているショップも少なくなり、仕方なくネットに頼っている。
 また、管理釣り場はあるが、フライの専用エリアがなくなったり、縮小されているようだ。その反面、例えばびわ湖の周辺では、ルアーによるバス釣りは盛んだ。自宅近くのため池には、バス釣りの若者たちが毎日のように来ている。

 一方、山間部では住民の高齢化がすすみ、渓流漁の放流が出来なくなったところもある。高齢化はフィッシングの現場にまで及んできた。中山間部や里山でも鹿やイノシシが増え、熊の出没も珍しくはなくなった。フライに夢中になっていて、熊と鉢合わせ、なんて笑い話ではなくなった。

 5年ほど前のことだが、里山に流れる谷筋でフライロッドを振っていた。ふと気が付くと土手の上に、野良着姿の老人が私の釣りの様子を眺めていた。うまくヒットするかどうか、少し緊張した。運よくアマゴがフライを銜えてくれた。20㎝ほどの形のいいアマゴだった。フックをはずして、そぉーっとリリースした。それを見ていた老人が「あっ、もったいない!」と声をあげた。もうこんなシーンもなくなるかもしれない。
※画像はいずれもイメージです
(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員