- 第528回 -  筆者 中村 達


『山水のこと』

 この時期になると、熱中症に気をつけなければならない。熱中症という言葉は最近になってよく耳にするようになった。かつては、熱射病とか日射病などとよく言われたが、これらも熱中症に分類されるようだ。
 それはともかく水分補給が大切で、山では水筒は必携だ。最近では水筒とは言わず、ウォーターボトルと呼ばれていることも多い。アルミ製のものが多いが、コンビニで買ったペットボトル入りの水をそのまま持参することもある。ただ、容器が薄くなって、アウトドアで使いまわすには強度が心配だ。
 かつて山では谷川の水は、両手ですくってそのまま飲んだ。もちろん本流は避けて、支流とか湧水を利用した。乾いた喉に冷たい山の水がしみ込んで元気が出た。近郊の山でも、きれいな水を飲むことができ、持参した空の水筒を山の水で満たした。
山の水を飲んでお腹を痛めたことはなかったと思う。ここの水は甘いとか、硬いとか。いっぱしのことをよく言ったものだ。

 10数年前のことだが、日帰り山行のツアーに同行したことがあった。付き添っていたスタッフが、参加者のお湯を沸かすために、2リットルのミネラルウォーターのペットボトルを、2本もリュックサックに入れていた。不思議に思って「重たいのに、なぜ山の水を使わないの」とたずねると「山の水は危なくて」と、返ってきた。
 シカやイノシシが増えて、渓谷の水は汚染されている可能性があるのだそうだ。そういえば「この水は飲めません」などという立札や看板が目に付くようになった気がする。美味しそうな水が目の前を流れているのに、飲むのは自己責任だと思うと、やはり躊躇してしまう。
 以前は全く気にせずガブガブ飲んでいたが、この話を聞いてから飲み水は持参するようになった。そして、なぜかやたらウォーターボトルが増えてしまった。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員