- 第526回 -  筆者 中村 達


『ストックウォーキングのこと』

 Wストックを使って歩くノルディックウォークが、静かなブームだ。少し前までは、さほど注目されなかったように思えたが、いまでは、私の自宅周辺でもWストックで歩いている人を見かけるようになった。先日、隣人からストックはどこで買えば?どんなのがいいか?と尋ねられた。

 私がはじめてストックを使って山を歩いたのは、20数年ほど前のことだ。米国のニューハンプシャー州のホワイトマウンテンにテント泊で登りに行く際、同行してくれた山岳ガイドが、ストックのレンタルを勧めてくれた。「ここでは常識だ、ぜひ、持って行け!」という。国内でも登山でのストックの使用は、ぼちぼち出始めてはいたが、まだ一般的ではなかった。
 歩きはじめは杖のようなものだと思っていた。両手にストックをもって交互に動かさなければならないので、いつもなら腰に当てたりしていた手が、なんだか不自由になった。
 しかし、1時間も登ると何となくストックに慣れてきた。ガイドを見ていると、頻繁に長さを調整しながら歩いている。また、休む度にウェアを重ね、歩く際にはまた脱いでと、レイァリングは常時やっているという感じだった。気がつけば半パンツが、いつの間にか長パンツに変わっていた。こちらは、ズーッと同じままでいたので、ガイドが見かねたのか「温度調整した方がいいよ」とサジェッションしてくれた。
 登りはじめて3日目にホワイトマウンテンの山頂に立て、そこからは長い下りになった。ゴロゴロした岩のトレイルは歩きにくかった。ガイドがストックは「もっと積極的に使え!4本足の前足のように、アクティブに使え!体重をストックに預けて前足を思いっきり使え。そうすれば早く楽に下れる!」。彼は走るように下った。
 はじめはオッカナビックリだったが、慣れてくると確かに楽になった。ストックに体重を預けるのにも抵抗が少なくなった。スピードが出た。
 帰国して早速、山用のストックを買い、教えてもらったこの方法で山を歩いていた。ただ、この歩き方は誰にでも勧められるものではない。山をよく歩いていて、体力があり、足腰を鍛えていないと事故につながる可能性もある。
 当時、私もまだ若く現役だったので、この方法が良かったが、いまは、体力的にも出来ないような気がする。ただ、ストックは補助的に使うのではなく、積極的に利用するようにはしてはいる。

 この使い方は、ブームのストックウォーキングとは異なるが、スキーの道具であったものが、雪上ではなく地面の上で健康づくりに広く活用される時代になった。バックパックに収納できるコンパクトで、軽量なものも売られている。ストックケースなるものもあって、その進化に驚いている。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員