- 第525回 -  筆者 中村 達


『安藤百福センターGWの風景』

 このGWは安藤百福センターに出かけてきた。長野県小諸市の標高700mにある安藤百福センターも新緑が芽生え、長い冬から活動的な季節になった。とはいえ、道中の新和田トンネルの1200m付近は、まだ桜が満開だった。
 安藤百福センターはミズナラ、コナラ、ケヤキ、アカマツ、落葉松などがつくり出す森の中にある。森の中は小鳥のさえずりと、ときおり吹く風に木の葉が擦れる音が聞こえるだけだった。
 時間があれば原稿でもと、パソコンを持ってきたが、全く触る気がしなかった。いつもは会議や打ち合わせに追われるので、残念ながら森をゆっくり歩いたり、近隣の名所旧跡を見ることはほとんどない。

 安藤百福センターからは、浅間・八ヶ岳パノラマトレイルがのびている。トレイルをほんの少し歩くと、道端にヒトリシズカの群落があった。すぐ横を見ると、マムシ草がスーッと伸びていた。いまさらのように発見した自分が恥ずかしかった。
 GWはさすがに研修の利用はないが、見学者が次々に訪れるのでスタッフはその対応に忙しい。たずねてみると、地元小諸市や近隣の佐久市や上田市のほか、首都圏からの来訪者もおられた。ネットで検索して来られる人たちが多いようだ。
 また、浅間・八ヶ岳パノラマトレイルを、安藤百福センターを起点に家族やグループで歩いている人も目に付いた。少しずつこのロングトレイルも市民権を得ているようだ。
 付近には有名な布引観音がある。実は10数年前に一度訪れただけで、久しぶりに登ってみた。駐車場からケヤキの大木や巨岩の間を縫って、20分ほど山道を登ると、岩壁に舞台の様に設えられた観音堂があった。多くの家族連れや若者のグループ、カップルなどが手を合わせていた。
 布引観音から千曲川を渡り、関越道の小諸インター近くにはワイナリーがある。ここも10数年ぶりだ。私は車の運転があるので試飲はできなかったが、同行者はいろいろなワインをティスティングして上機嫌だった。ワイナリーや酒蔵を訪ねるたびに感じるのだが、テンションがあがり、顔がほころぶのが面白い。そう思って周囲を見みると、笑顔の人たちばっかりだった。

 小諸市には山本勘助が城の原型をつくたといわれる懐古園がある。その懐古園には作家島崎藤村の詩碑がある。藤村は小諸に6年ほど住んで「千曲川のスケッチ」などの作品を書いた。また、小諸をよく歩き安藤百福センターのある大久保付近を通って、御牧ケ原、望月宿あたりまで足を延ばしたのではないかと思う。浅間・八ヶ岳パノラマトレイルも一部だが、藤村の足跡を追うように整備されている。
 普段は静かな懐古園だが、さすがにGWは市民や観光客でにぎわっていた。蕎麦でも食べようかと、食堂を見ると長蛇の列ができていた。

 つかの間の滞在だったが、仕事の視覚から離れて小諸や安藤百福センターを見ると、まだまだ面白い発見や感動がある。今回訪ねたところは、いずれも安藤百福センターから車で10分ほどと近い。
 次はテントでも持って、森の中で過ごしたいと思う。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員