- 第523回 -  筆者 中村 達


『遊ぶ靴のこと』

 歩くにはいい季節になってきた。以前、その人のアウトドア度、言い換えれば「遊び度」を推し量るには、遊び用の靴をいくつ持っているかでわかる、なんてことが言われたことがあった。スニーカー、ランニングシューズ、ハイキング・トレッキング用のシューズ、登山靴のほか、スキーブーツやワークブーツなどもはいる。確かにその人の持っている靴の種類と数を見れば、あながち間違っていないような気もする。

 私が初めて登山靴を買ってもらったのは、中学3年生だった。革製の登山靴だったが、足に豆が出来て大変な思いをした。高校生になってオーダーの登山靴を手に入れることができた。当時の価格で1万2千円ぐらいだったと思う。大卒の初任給が2万円に届かなかった時代で、登山靴はかなり高価のものだった。オーダーといっても、当時はそれが普通だった。高校生なので3か月の月賦で支払った。高校生が付けで買えたのだから、のどかな時代だった。
 この登山靴はビブラムソールを二度ほど交換して、大学1年生まで履き続けた。1970年代に入ると、ヨーロッパ製の登山靴が続々と輸入されるようになって種類も増えた。岩登り用の「クレッターシューズ」というのも一世を風靡した。
 私もアルバイトで稼いでドイツ製の登山靴を手に入れた。3万円以上したように記憶している。大卒の初任給より高かった。山から帰り、暇さえあれば汚れを落として保革油を塗り込んだ。
 さて、いまは「遊ぶ靴」は、種類もブランドも相当数にのぼる。量販店だけでなくネットでも格安で買い求めることが出来る。スーパーでも街の靴屋さんでも手に入るようになった。
 数えたことはないが、私でもアウトドア用の靴は、10足以上は持っていると思う。価格はせいぜい5万円程度が最高値だ。ハイキングシューズはバーゲンでは1万円程度で買ったものもある。無雪積期であれば2万円も出せば、まず製品に問題はないように思う。
 考えてみれば、いま、ハイキングシューズや登山靴と称されるモノの価格は、50年ほど前と大差ないように思う。一部を除いて、ほとんど変わっていないのではないか。どう考えても50年前の物価指数とは全く比例していない気がする。しかし、機能自体は飛躍的に向上していて、防水透湿機能は当たり前で、足入れやフィット感、疲労度の軽減性などは比べようもなく進化している。ただ、問題はそれを履く側の体力や技術が、その靴の性能についていけるかどうかだろうか。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員