- 第518回 -  筆者 中村 達


『遅い初滑り』

 遅めの初滑りに出かけてきた。自宅からびわ湖大橋を渡って、比良山系の山上にあるスキー場の麓まで、車で1時間少々で着いた。ウィークディなので空いていると思っていたが、駐車している車は予想以上に多かった。係員に今日は多いですか、とたずねると「少ないですよ。でもこの時間から午後の割引料金になるので少し増えてきました」。
 駐車場からシャトルバスに乗って、ロープウェイの麓駅にあがった。ロープウェイは121名乗りだそうで、かつてのゴンドラやその前のカーレーター時代の順番待ち3時間、とかはなくなったようだ。もっとも、それはスキー狂騒時代のお話ではあるが・・・。

 ロープウェイは満員状態だった。周囲を見渡すとスキーヤーより圧倒的にスノーボーダーが多く、スキーヤーは私のような中高年のオヤジが中心のように見えた。
 標高1100mの山上にあがると、気温は-4℃。スタート地点になる打見山山頂へは、スキーを担いで少し歩かねばならない。息が切れた。山上はたくさんのスノーボーダーが座り込んでいて、滑る態勢をつくっているようだ。
 そんな中で、カメラやスマホを片手に、はしゃいでいる一団があった。いわゆるインバウンドでこの国にやってきた外国人観光客だ。彼らがやがて、見るだけの観光から、体験型へと移行し、スノボーやスキーを楽しんでくれることになれば、スキー場も活性化するのではと期待する。
 ボーダーが多いので、彼らを避けるようにして斜面の端から滑りだした。初滑りは何度経験しても少し緊張する。うまく滑れるか、身体が回転を覚えているかなど、この少しの緊張感が、実は何ともいい。
 何回転かすると、少しずつ慣れてきて、スムースに円弧を描けるようになった。この日は、先日来の寒波で新雪があり、ゲレンデコンディションは最高。パウダーに近い状態で、大変滑りやすかった。どのコースも全面滑走可で、こんなに大きいスキー場だったのかと、改めて見直した。何度となく訪れてはいるが、全コースを滑ったのは、この日が初めてだったかもしれない。

 リフトの隣の席に座ったのもボーダーだった。声をかけてみた。「よく来るの?」「実は今日初めてボードをするんです」と返ってきた。その隣席の男性も同じだそうだ。
「楽しい?」
「はい!」と笑顔で答えてくれた。
 リフトの下を見ると、いくつものスキーグローブ、帽子などが新雪の上に落ちていた。初心者のボーダーが、うっかり落としてしまったのかも知れない。
 雪の上に踏み跡が全くないので、取りに来るのを諦めたのだろうか。ただ、回収しようとしても、かなりハードなラッセルを強いられるに違いない。
 とはいえ、若い人たちが自然の中で、ボードやスキーを楽しむのはいいことだ。彼らは嬉々として、どの顔も笑顔だった。

(次回へつづく)


■バックナンバー

■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員