- 第505回 -  筆者 中村 達


『ランチウェイを歩く』

 北海道中標津のランチウェイを歩いてきた。ランチとは大規模牧場のことで、国内では珍しい。その牧場内にロングトレイルが設定されている。訪ねたのは今回で3度目だが、新ルートが出来たので、歩いてみようと思った。
 このルートは、冬にスノーシューで歩くコースとしてお薦めだそうだ。極寒の中標津の冬に、既設のランチウェイを歩くは厳しい。そこで考えられたのが、牧場の真ん中にお椀を伏せたような山容のモアン山(356m 静かな山、あるいは鷲とり小屋のある川、の意)を目指すトレイルだ。冬であれば牛は放牧されていないし、ハイカーが出会うことも少ないだろう。
 冬季以外は、トレイルは牧場の外周を歩くように設定されている。これは、放牧されている牛などに、ハイカーが接触しないように配慮されているからだ。
 ハイカーが知らず知らずのうちに持ち込む可能性のある伝染病を、少しでも回避しようとしている。ランチウェイにとっては、牛が伝染病に罹らないように配慮するのが、最優先の課題となっている。

 都市生活者が牛などの家畜を直接見たり触れたりする機会は、非常に少なくなった。だからどのように接していいか、よくわからない場合が多い。基本的なルールの認識も乏しいように思う。だから、牧場で牛が寄ってくると、うっかり触ってみたり、餌を与えたりしかねないのだ。これは、厳禁で絶対にやってはいけない。
 ランチウェイの入り口(開陽台)には消毒用の石灰が置いてあり、そこに足を入れてから歩きはじめるのがルールとなっている。

 日本では類まれなロングトレイルとなり、広く知られるようになったランチウェイだけに、いつまでも歩けるように、私たち利用者が一人一人ルールをしっかり守らなければならない。そして、牧場を歩くためのルールやマナーを、伝えていくことがどうしても必要だ。
 残念なことにこのランチウェイや周辺には、ビジターセンターがない。この先、多くのハイカーが訪れると予想される。環境教育のためにもビジターセンターの設置をもとめたい。
 この日、モアン山を周回するコースを歩いたが、藪が刈り込まれ歩きやすいように整備されていた。台風で流された数多くの小さな木橋も、すべて掛けなおされていた。大変な労力だが、整備は主宰者の数人だけで、本業の酪農業の合間を縫って行っているのだそうだ。もちろんボランティアの奉仕作業だ。
 ロングトレイルの整備は、こんな人たちに支えられている。

(次回へつづく)


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■筆者紹介

中村 達(なかむら とおる)
京都生まれ。アウトドアジャーナリスト・プロデューサー
安藤百福センター副センター長、日本ロングトレイル協会代表理事、全国山の日協議会常務理事、国際自然環境アウトドア専門学校顧問、全日本スキー連盟教育本部アドバイザーなど。アウトドアジャーナリスト。
生活に密着したネーチャーライフを提案している。著書に「アウトドアズマーケティングの歩き方」「アウトドアビジネスへの提言」「アウトドアズがライフスタイルになる日」など。『歩く』3部作(東映ビデオ)総監修。カラコルム、ネパール、ニュージランド、ヨーロッパアルプスなど海外登山・ハイキング多数。日本山岳会会員